目次
作品情報
作者:西澤保彦
出版社:講談社文庫
雑感
世にも珍しい「タイムリープによる事件の防止」を目的とした推理小説。
起きてしまった祖父の殺人事件をなかったことにするため主人公の久太郎が奮闘します。
ただ、推理らしい推理はありません。祖父に近づいた人間を容疑者と断定して、防止策を講じるのみです。
そのため、推理小説を期待するとがっかりするかもしれない。
なお、1995年の作品と言うことで、未成年が普通に飲酒してます。
粗筋
タイムリープに巻き込まれる主人公の数奇な運命
僕こと久太郎は反復落とし穴という特異体質を持って生まれた。
はまってしまうと1日を9回繰り返すまで抜けられないのだ。
もちろん良い面は多い。例えば、テスト日に重なれば何度も受けなおし、最高の点数を取ることができるだろう。
しかし、落ちる日を自分で決められないから使い勝手は悪い。
また、繰り返すだけでは変えられない日本中の事件に無力感を感じこともある。
そういうわけで、この体質を利用することなくこれまで過ごしてきたのだ。
自分の行動で祖父が死ぬ運命に
祖父と酒盛りをした翌日、僕は反復落とし穴にはまった。
となれば、再び祖父に誘われるはずだが、流石にもう勘弁願いたい。
そこで祖父から隠れて1日を過ごすことにした。
このまま残り8回を同じように過ごせばよい。それで問題ないはずだ。
ところが、夕刻に祖父の死体が発見され、僕の行動が最悪な未来を作ったことに気づいてしまった。
祖父を死なせたまま反復落とし穴を出るわけにはいかない。
できれば酒盛り以外の方法で祖父を生かしたい。初めて反復落とし穴で人の命を左右する日が来たのだ。
登場人物
祖父の遺産を巡るあまりにも醜い骨肉の争い。
のはすが登場人物に不快感が一切ありません。裏表がないせいでしょうか。
娘たちは金!金!金!を前面に押し出して隠そうともしませんし、孫たちは従妹間の恋愛戦争にご執心。
欲望に正直すぎて嫌いになれないんですよね。まあ、クズなんですが。
そんな渕上家の惨状を主人公が傍観者として眺めているのがシュールで仕方ない。
そんな彼らが祖父の死でどうなるのか。要注目ですな。
事件
容疑者を祖父に近づけるな
屋根裏部屋で祖父は殺された。
そして、久太郎は祖父が死ぬ直前に部屋を訪れた人を見ていました。
だったら次のループで容疑者が祖父と出会わないようにすればよい。
実に単純明快な論理です。しかし、それで解決すれば物語にならないわけで。
タイムリープ問題の1つとされる「修正力」が邪魔をしてきます。
策を講じても祖父の死という結果が変わらない。
なぜ?別の容疑者が現れたのか?タイムリープの規定回数が近づく中、久太郎はどんどん追い詰められていくのです。
これは果たしてミステリなのか
事件を追っている感じが全くありません。
トリックらしいものは一切なく、証拠集めや聞き込みなんて皆無です。
まあ、タイムリープで事件前に何度も戻るので仕方ないのですが…。
証拠なんて残るわけありませんし、周囲に聞こうにも変人扱いされるだけでしょうし。
そういうわけで事件の内容は主人公の空想で話が進んでいきます。根拠なんてありません。
起こる未来を知っているアドバンテージを活かして推理する…という展開は期待してはいけない。
そんな展開をお望みの方は時空旅行者の砂時計をオススメします。
あちらも良質なタイムトラベルミステリーです。
クライマックス
あー、こうなるかあ。
確かに落としどころと言えばベストである。納得した。
ただ、どこか残念な結末だなと感じました。ミステリーじゃないよなぁ、これじゃあなあ。
大円団ではあるので、後味は良いです。
でも、ミステリーを期待して読むと肩透かし。それもまた事実。
総評すると純粋なタイムリープ小説と思ったほうが良い。そんな感想。
まとめ
登場人物の個性が強く、読んでいて楽しい物語。
タイムリープで死を回避するというのも面白い。
ただ、ミステリー要素はそんなにない。ていうか、ない。
クライマックスもミステリー好きは賛否両論な気はします。