目次
作品情報
作者:方丈貴恵
出版社:創元推理文庫
粗筋
妻の祖先を襲った事件の日にタイムトラベルせよ
間質性肺炎にかかった瀕死の妻の見舞いの帰り、加茂はマイスター・ホラと名乗る者からの電話を受けます。
ホラ曰く、「妻の死の原因は祖先に起こった事件にある」とのこと。
そして、それを解決すれば妻は救われるというのです。
そのためにホラはタイムトラベルを提案、半信半疑ながら妻を救う加茂は一縷の望みにかけることにしました。
こうして彼は妻の祖先である竜泉家を襲った『死野の惨劇』に挑むことになるのでした。
タイムリミットまでに真犯人を突き止めよ
加茂はジャーナリストとして、死野の惨劇をある程度は知っていました。
主たる情報は当事者である竜泉文香の残した日記。それには当時の状況が克明に記されていたのです。
残念ながら彼女は惨劇の最後、土砂崩れに巻き込まれて死んでしまいます。そのため、真犯人までは記されていません。
とはいえ、殺される人間の順番や関係者の名前は貴重な情報。
加茂は過去を知るアドバンテージを活かし、「名探偵」として屋敷に潜り込むことに成功しました。
しかし、事件は加茂の情報とは異なる流れで進むことになり…。
トリック
タイムトラベル特有の事象を扱った事件
加茂は情報を持った状態で過去に飛ぶことになります。
この時点で普通の事件とは異なるのですが、タイムトラベル特有の事象が事件を複雑にさせます。
まず最初に思いつくのがタイムパラドックス。
過去の歴史を変えることで発生する矛盾の事。
本作の場合、タイムトラベルの回数にこそ制限はありませんが、タイムパラドックスが足かせになります
例えば、加茂が10分前に戻った場合、そこには加茂がすでに存在し矛盾が生じます。
その自浄作用として、10分前にいるはずだった加茂は存在が消えてしまうのです。
作品によっては10分前の自分にバレなければセーフの場合もありますが、本作でそれは通じないようです。
それ以外もバタフライ効果で歴史が大きく変わることもあり、加茂の事前情報はそこまで使えなくなります。
タイムトラベルの特徴をふんだんに使ったSFミステリーとして申し分ありません。
まあ、こういう話をすると「そもそも加茂が事件を解決したら加茂が過去に行く理由がなくなるじゃん。タイムパラドックスじゃね?」となりますが、その辺は本作を読んでください。
読者に推理させる本格推理小説
マイスター・ホラが案内人となり、我々読者にも真犯人の追及を求めます。
作中に必要な情報は全て出し、後は推理するだけ。後出しの情報は一切ありません。
事件は不可能犯罪が多く、ハウダニット好きは存分に推理に耽ることができるでしょう。
ただ、犯人については確定した情報はなく消去法で割り出すことになります。
なので、フーダニット好きはそんなにかもしれません。
登場人物が多すぎてわけがわからなくなる
とにかく多い。死野の惨劇に巻き込まれた人数だけで10人もいますからね。
更に竜泉家の家系図まで出てくるので、関係の整理だけでも大変。
一応は図で整理してくれていますけどね。この辺はかなり苦労すると思います。
まあ、あくまで動機に関わる部分なので、推理の足かせにはなりません。その辺はご安心を。
クライマックス
きれいにまとまったなという印象。
なぜ加茂が選ばれたのか。ホラの正体は。加茂は無事に妻と会えるのか。
事件以外の謎が怒涛の勢いで後悔され、SF小説として素晴らしい展開になります。
一方で大逆転要素はなく、加茂が追い詰められることもありません。
土砂崩れも事件解決後に発生するので、緊迫感を求める人には不向きかと思います。
緊迫感を求めてる人は紅蓮館の殺人がオススメ。
まとめ
デビュー作とは思えない完成度のSF推理小説。
登場人物の多さやタイムトラベルの詳細な設定から見て、綿密なプロットを立てたのだと分かります。
タイムトラベルサスペンスが好きな人にオススメ。