作品情報
作者:阿津川辰海
出版社:光文社文庫
雑感
「未来視」を用いて殺人事件を調査する推理小説。
特殊設定に近いですが、やってることは精度の低い監視カメラなので、一般的な推理小説が好みの人も違和感なく受け入れられると思います。
足で情報を集めてトライ&エラーの末に真実を目指す推理小説の良さを体感できました。
徹底的にフーダニットに拘っており、ずらしはありません。スラスラと読める良書。
長編が故に読むのは根気がいりますけどね。453ページは中々のボリュームです。
粗筋
被疑者を射殺し、自主謹慎を命じられた獅童は故郷を訪れていた。
ところが、初めて出会った学生から「殺人犯の容疑をかけられた師匠を救ってほしい」と懇願され、獅童は謹慎中にも関わらず事件に巻き込まれてしまうのだった。
現場は星詠会と呼ばれる研究機関で、未来が映し出される紫水晶を研究しているらしい。
そして、今回、殺人事件の瞬間が紫水晶に映っており、それによって容疑者が特定されているのだ。
紫水晶に映る内容が事実であるならば、揺るぎない証拠となる。しかし、容疑者となった石上真維那は殺人を犯すような男には見えない。
紫水晶に映った内容に矛盾があるのではないか。こうして獅童は事件の真相を暴くため行動を開始するのだった。
トリック
未来を見通す紫水晶が事件を惑わす
未来視を行う星詠師が本作のトリックの肝ですが、中々の欠陥能力でして調査は思ったように進みません。
- 星詠師の視点が数分~数十分映し出される
- 視覚情報のみの上にタイミングもランダム。日時や場所の特定は困難
読唇術を使えば話している内容の解読は不可能ではありませんが、映し出されるタイミングについては如何ともしがたい。
不完全な未来予知を軸に推理をする斬新な特殊設定ミステリとなっています。
フーダニット小説として素晴らしいが、動機の解明が不十分
犯人の特定に重きをおいており、フーダニット好きにオススメの本作。
過去と現在の事件が複雑に絡み合っており、様々な容疑者が浮上してワクワクしました。
その関係上、過去回想に多くのページを割いています。被害者の人となりを詳しく知ることが出来るのは推理小説にはあまりない展開です。
ただ、半端な所で終わるので、被害者の最後の想いを知ることが叶わないのは残念でした。
彼が何を思って死んだのか。息子や妻にどういった想いを持っていたのか。自分の人生をどう考えていたのか。すべて不明です。
また、過去の事件の犯人の動機も想像でしか語られません。せっかくなら本人の口から聞きたかったなあと。まあ、あくまでメインは現代の事件だから仕方ないのか。
読者のために想像の余地を残しておいたのでしょう。これもまた本書の醍醐味と言えるかもしれません。

