【粗筋】もう、聞こえない【感想】～その「声」を信じるか～

2024年2月25日

作品情報

作者：誉田哲也
出版社：幻冬舎文庫

不覚にもウルっと来た。

傷害致死事件の被疑者にだけ聞こえる「声」を軸に進める異色の推理小説。
基本は王道ですが、そのズラシが読者に新鮮さを与えてくれました。

青春小説としても完成度が高く、味変を求めたい方にオススメの作品です。

それは精神障害者の妄言なのか。それとも本当なのか。
傷害致死事件の被疑者・中西雪美にだけ聞こえる「声」が警察の武脇を惑わせます。

本来なら正当防衛で終わるはずだった事件。
被害者の身元も一向に分からず、武脇は後味の悪さを感じていました。

ゆったんの愛称で親しまれる女性がいました。
14年前の未解決事件の被害者の友人であり、傷害致死事件の引き金にもなった人物。

彼女の幼少期から記者として成長するまでの半生が語られます。
いったい彼女の半生は一連の事件と何の関係があるのか。そして、声とはいったい。

彼女の正体を知るにつれ、2つの事件は思いも寄らぬ繋がりを見せることになるのでした。

14年前の未解決事件の被害者である美波。
本書は美波とゆったんの青春がメインと言っても過言ではありません。

結末は悲惨でしたが、間違いなく無二の親友だった。
その2人の人生に悲しみと温かさが両立しました。

ここだけ切り取ると、向日葵を手折るに匹敵する青春小説と言えるでしょう。

もちろん本筋は殺人事件なのは間違いありません。
2人の人生を知ったうえで、我々読者は事件の真相に辿り着かなくてはならないのです。

現実にはあり得ない「声」の存在。
いわゆる特殊設定と言えるかもしれません。

ただ、実際の話、人によっては普通の話なんですよね。
信じる人と信じない人がいる。そういったテーマを推理小説に落とし込んでいます。

警察の武脇は最初こそ妄言だと切り捨てていました。
しかし、その話の正確さに僅かながら信ぴょう性を感じ始めます。

こう考えると武脇は読者側の人間と言えるかもしれませんね。
本書を荒唐無稽と切り捨てるか。あり得るかもと感じるかは読者次第です。

ハッピーエンドと思いきや…。なんとなくモヤモヤする展開ではある。
いや、お前そうなるんかーいとツッコミを絶対にする。間違いない。

まあ、これは僕の性格が悪いだけでしょうね。純粋に仲良しだねで終わる話ではある。
でも、なんでそうなるんだろうな。一緒に…すればよかったのに。まだ何かしたいことでもあるのか。

僕が何を言いたいのかは本書を読めばわかります。

突拍子もないテーマを融合させた特殊設定推理小説。
人物描写も秀逸で愛着が湧いてきました。

ラストは個人的には賛否両論。嫌いじゃないけど好きじゃない。