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作品情報

作者:真保裕一
出版社:文春文庫

雑感

誘拐事件を扱った小説として屈指の完成度。

犯人の要求が「衆議院議員の暴露話」という奇想天外さがまず面白い。
その要求と絡めて熾烈な政権争いも描かれ、警察、マスコミ、政府のあらゆる関係者が巻き込まれていく様は圧巻。

その中で姪っ子と宇田家の両方を守る術を考え続ける晄司が実に頼もしかったです。

粗筋

政治家の孫が誘拐され、前代未聞の要求がされる

衆議院議員・宇田清治郎の孫娘の誘拐。
宇田家や警察は身代金の要求を待ってたが、なんと犯人の要求は「罪の暴露」だった。

確かに宇田は政治家として汚いことをやってきた。しかし、どれが犯人の望むものかはっきりしない。
いったい何をどこまで話すべきなのか。そもそも事件が終わった後に政治家として活動を続けられるのか。

話す内容次第では総理にまで影響が及ぶだろう。それをいち早く察知した幹部たちが宇田に圧力をかけ始める。

タイムリミットが迫る中、犯人の動機を模索する警察

金銭目的ではない異例の事件で、誘拐現場には何一つ証拠が残されていない。
犯人は間違いなく知略に優れた人間だ。警部補の平尾は直感する。

何も証拠がないならば、動機から洗っていくしかない。
平尾は宇田本人や親族の関係者を徹底的に洗い出し、動機探しに翻弄することになった。

調査の範囲
  1. 宇田清治郎の失脚で得をする者
  2. 長女麻由美の旦那である緒形恒之の女事情
  3. 次男晄司の前職の人間関係

果たして犯人の動機とは。どこに隠れ潜んでいるのか。
タイムリミットが迫る中、平尾たちの決死の操作が続く。

トリック・推理

残酷で熾烈な権力闘争にワクワクが止まらない

本書の肝は誘拐事件…ではなく、それによって巻き起こる権力闘争です。

罪の暴露によって国民の糾弾は免れない。それが果たしてどこまで影響を与えるのか。
ことは宇田だけの問題ではない。…いや、この機会に全ての罪を宇田清治郎に押し付けるのも良いだろう。

命と権力を天秤にかけた熾烈な争いが与党内で繰り広げられるのです。

宇田清治郎の次男である晄司はこの惨状を嫌でも見続けなくてはなりません。

大事な姪の命を何だと思っているのか。父を助けてくれる者はいないのか。
父の秘書になって日の浅い晄司はフラットに状況を俯瞰し、解決策を模索します。

本書は晄司の政治家としての成長物語でもあります。冒頭とラストでまるで別人でびっくりする。

刑事の推理と聞き込みで宇田家の闇に迫る!

ヒントが何もない状況なので、捜査は進んで戻っての繰り返しになります。

一向に進展がなく、真相を知りたい読者はヤキモキするかもしれません。
一方で宇田を取り巻く状況の調査はものすごい勢いで進展していきます。

平尾の刑事としての勘がさえわたり、宇田とその家族の私生活は丸裸にされるのです。

聞き込みも鮮やか。常に疑ってかかり、時には脅しに近いこともします。
まあ、そのせいで本筋がどんどんぼやけてくるのですが。結局、犯人に近づいてるのか遠のいてるのか分かりませんからね。

そういうわけで刑事視点でも政治闘争が中心となり、実は誘拐事件としての魅力はそんなにありません。

ひたすらに政治家の話。半沢直樹が好きな人には良いかもしれない。なんか晄司もそれっぽいし。

クライマックス

宇田清治郎…ではなく、その次男である晄司の決意。それが物語をクライマックスに導きます。
この親にしてこの子ありと言うのでしょうか。清濁併せ吞む晄司の行動に宇田家の命運が託されました。

一方、刑事の平尾も終盤に向けて最後の調査が始まります。
晄司ともコンタクトを取り、W主人公で物語のフィナーレを迎えるのです。

犯人についての言及はネタバレなのでしませんが、結末は全く予想がつきませんでした。

まとめ

政治家の裏側を知りたい人は本書がオススメ。実に生々しく描かれている。
タイムリミットサスペンスとしても傑作。こら売れるわ。

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