目次
作品情報
作者:東野圭吾
出版社:講談社文庫
粗筋
昔の恋人の記憶を取り戻す物語
同窓会で再開した元恋人の沙也加。
彼女はすでに結婚しており、主人公も話しかけることはなくその場は終わりました。
その翌週、突然に彼女から電話がかかり、「会って話したいことがある」とお願いされました。
僅かな不安と期待を抱えながら主人公は承諾します。そして、当日に奇妙な相談を持ち掛けられるのです。
私とある家に行ってほしい。
曰く、彼女は幼少期の記憶がなく、そこに行けば取り戻せるかもしれないとのこと。
なぜ今になって知りたいと思ったのか。主人公に頼む理由はなんなのか。
まったく状況は掴めませんが、沙也加のあまりの必死な願いに再び承諾することになります。
それは惚れた弱み故か。それとも主人公にも何かきっかけがあったのか。
こうして2人だけの物語が始まるのでした。
人のいた痕跡を残すも「何か」が欠けた空間
調査をしていくうちにこの家の状況が分かってきました。
誇りかぶっているものの家具や道具は残っており、目立った損傷もありません。
- 主人の衣服
- 夫人の編みかけのセーター
- 子どもの日記やランドセル
確かに誰かがいた痕跡は残っているのです。人だけがここにいません。
突然の夜逃げだろうか。しかし、なにかがおかしい。
普通の人が生活をする上で決定的なものが欠落している。主人公はそう考えました。
いったいココはなんなのか。住人はどこに消えたのか。沙也加とのつながりはなんなのか。
白い小さな家の謎はより深まっていくのでした。
トリック
家全体がトリックの舞台。そのすべてを見破れるか。
話は全て「白い小さな家」で進みます。
部屋の構造や残されたもの。そのすべてが推理の材料となるのです。
移動範囲自体は狭いが故の深さを感じました。だいたいの推理小説は浅く広くですからね。
家を徹底的に調べ上げる。変な家に通ずるものがあります。
語り手は主人公と沙也加だけであり、現在では事件は一切おこりません。
ただただ証拠だけで推理が行われます。
過去を追う物語であり、危機に見舞われることはない。
無人の家ということで、屋内の雰囲気はおどろおどろしいです。
ですが、びっくり要素はなく、安心して読み進められました。もちろん彼らのまえに殺人事件が起こることもありません。
そういう意味では何も起こらない推理小説と言えるでしょう。
まあ、不気味なほどにモノが残っているのは軽いホラーですけどね。
社会問題にも切り込む意欲作
本書ではある社会問題をテーマとしています。
再会した時の沙也加の暗く必死な顔。その理由はある程度まで読み進めると明らかになります。
そうなった原因は過去にあるかもしれない。どうころんでも明るい真実がでるわけない。
でも、知らずにはいられない。沙也加の悲壮な叫びが常に聞こえてくるようでした。
誰が悪いというか何が悪いというか。真実を知った時のやりきれなさは今も僕の胸にくすぶっています。
クライマックス
小さな家の正体を暴く納得のラスト
伏線は螺旋となりあなたの心を虜にする。
キャッチコピー
この言葉に偽りはありません。
本書の良い点として、伏線を主人公たちが分かりやすく説明くれます。
あれ、これはどういうことだ。そこにあるはずなのに…。
このように読者が主人公たちと一緒に謎を共有できるというわけです。
そして、その謎はある程度の情報がそろうと読者だけでも推理が可能。
もしかしてと思ってページを戻してやっぱりねと納得する面白さをぜひ味わってほしい。
怒涛の展開ではないため、物足りなさはあるか
読む前からバッドエンドと分かっており、現在進行形で事件も起こりません。
クローズドサークルなどの危機的状況にもならないため、クライマックスの盛り上がりは皆無です。
勢いを求めてる方は物足りないかもしれませんね。
まとめ
個人的にはすごい好き。爽快感を味わい人にはとことん不向きではあります。