作品情報

作者:吉川英梨
出版社:光文社文庫
販売店:

雑感

ゾンビを人として扱う斬新な切り口のゾンビ小説。

ゾンビは殺して当然という思考が実は異常だと分からされました。
そら人だったわけですからね。普通は割り切れませんよ。他作品の主人公がおかしいんやって。

本作はそんなゾンビとの向き合い方をテーマにした意欲作となっています。
人権派も出てきますからね。銃殺したら犯罪者だとよ。

当たり前ですが、話のほとんどはアクションで推理要素は皆無です。

登場人物

天城由羽

納得のいかない命令は断固拒否する負けん気の強い女刑事。ただ、からっとした性格のためか敵は意外と少ない。正しさを守ろうとする生粋の警察官である。

来栖光

謎に満ちた海保特殊警備員。国民と部下を守る為なら外敵の射殺を厭わない。由羽に何やら因縁があるようだが…。

感染者を人間として扱い、ゾンビと評することを許さない由羽。
ゾンビ集団を躊躇なく撃ち殺す来栖光を糾弾し、感染者を救えないか模索し続けています。

ゾンビ映画に慣れている人からすれば、ぶっちゃけイライラします。早く撃ってしまえばええやんと。

ただ、当然の反応なんですよね。創作物のゾンビと同じだから殺しましょうで納得なんてできません。

そういう意味で由羽は主人公として申し分ありません。感染者の殺害を許さない彼女は絶海の豪華船の中でどんな決断を下すのでしょうか。

事件

患者かゾンビか葛藤する人々

ゾンビ映画は色々と観てきましたが、どれもゾンビは殺して当然の対応ばかりでした。
その中で、本作はゾンビを病人と見るか化物と見るかで揺れ動きます。

何度も言うように本当に切り口が斬新なんですよね。

仮死状態で人だけを襲う。四肢が千切れようと心臓を撃たれようと死ぬことはない。
どう考えてもゾンビですが、それを受けいられる人はいません。

一緒に戦った仲間。あるいは家族。それを化け物として殺すのは人道に反する。
人権派は特に反発し、政府は患者を殺すことを禁止します。仮に撃てば犯罪者になるのです。

ある意味で究極のヒューマンドラマと言えるかもしれません。感染した子供のために命を捨てる親も出てきますからね。

ただのゾンビ作品ではない。色々と考えされされる内容です。

意外と序盤は捜査をしている

中盤以降はゾンビとの死闘になりますが、そこにたどり着くまでは意外と捜査をしています。

上層部に逆らう由羽がレストランで起こった人食い事件を常識の範囲内で洗っていきます。
何らかの麻薬を摂取して暴走したのではないか。ならば、その麻薬の出どころは?

料理人の足取りを追い、真実をつかもうとする姿は普通の刑事小説そのものでした。

しかも意外と良い線、言ってますからね。さすがにゾンビの実在は信用していませんでしたが、

もちろんあくまでメインはアクション。とはいえ、推理小説としても一定の読みごたえはあります。

クライマックス

そらもうドンパチよ。あちらこちらで阿鼻叫喚の地獄絵図やぞ。

覚悟のある者は患者をどんどんと撃ち殺しますが、多くは上層部の命令「射殺禁止」を順守して抵抗できずにかみ殺されます。
家族に別れの電話をして、自ら命を絶つ者も現れる始末。決してブレない来栖がいなければ、あっという間に全滅していたでしょう。

考察

船内で感染した新型ウィルス。未感染者も船に乗船したことで白い目で見られる。
感染者を隔離することを人権侵害と批判する一方で、下船した人たちの住所開示をせよと叫ばれる。

世界を混乱に陥れたコロナウィルスとほとんど同じ。明らかに影響を受けていますね。

こうやって客観的に見ても何が正解か本当に分かりません。

感染を防ぐ確実な手段は状況を1人も降ろさないことだったのでしょう。
ですが、それは明らかな人権侵害できるわけがありません。降ろすしかなかったのです。

その結果、国内にコロナが大流行し、あちこちで村八分が起こったのは皮肉としか言いようがありません。

せめて正しい情報が正しい場所から発信されれば良かったのでしょうが、それもできるはずもなく。

次なるパンデミックの覚悟をしようにも同じ結末になるとしか思えない。
本書を読んで、コロナの惨状を思い出し、やるせない気持ちになりました。

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