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作品情報

作者:歌田年
出版社:宝島社文庫

雑感

奇抜の一言。
ジオラマや紙から事件を想像し、解決に導いていきます。

そう、あくまで想像です。事件を示す物的証拠はありません。

なんなら妄言と切り捨てるであろう荒唐無稽な話。
でも、本当に起きていたわけだから面白い。

今までにない推理小説を求める方にうってつけの良書と言えるでしょう。

一方、証拠を固めてから事件を解決する展開が好きな人には相性最悪です。

粗筋

神探偵と勘違いした女性からの浮気調査

紙鑑定士として独立した渡部に舞い降りた不思議な依頼。
何を読み間違ったか神探偵と思って頼みに来たらしい。

曰く「浮気調査をお願いしたい。証拠はプラモデルの写真1枚だけ」

浮気調査はもちろんプラモデルさえ門外漢。
しかし、財布が軽い渡部は成果報酬10万円に釣られ、引き受けてしまう。

自分一人では解決できない。
そこで渡部は様々な伝手を当たり、伝説のプラモデル造形家の土生井に出会うことになった。

ジオラマに潜む陰謀に挑む渡部と土生井

土生井のおかげで浮気調査はひとまずの解決を見せた。
しかし、この活躍を聞きつけ、新たな依頼が渡部に降りかかることになる。

今度は失踪調査。証拠は1つのジオラマのみ。

またもや報酬に釣られた渡部は土生井を頼った。
この時の渡部は知る由もなかった。この失踪調査がやがて大量殺人計画に結びつくことに。

登場人物

土生井が便利キャラすぎる

ただのプラモデル造形家がバンバン推理し過ぎやろーがい!

プラモやジオラマの知識が凄まじいのは分かる。そういう経歴持ちだし。
ただ、ジオラマから事件の推理をほぼ完璧に言い当てるのは流石にムリがあったなと。

最初はゴミ屋敷に住む変なおっさんだったのに後半は名探偵ですからね。
まあ、他に推理する人がいなかったから仕方ないのでしょうが…。

事件

何も見えない事件に取り組む紙鑑定士

次々と送られてくるプラモデルやジオラマ。
プラモデル造形家の土生井に協力を求め、隠されたメッセージを導き出す。

容疑者も被害者も分からない。そもそも事件が起きているかも怪しい。そんな状態から捜査が始まる異例の推理小説となっています。

本の裏の粗筋を見なければジャンルが分からないまま読んでいたことでしょう。

警察の手助けはなく、むしろ容疑者扱いされる渡部

警察が何の注目もしていない事件を暴きだす渡部。
むしろ渡部が犯人で、自らの罪を隠蔽しようとしているのではないか。

警察や探偵と無縁の職業なわけですから警戒されるのは当然と言えるでしょう。
味方となるべき警察に妨害される、渡部の孤軍奮闘が本書で描かれます。

まあ、渡部本人もこんなに事が大きくなると思ってませんでしたからね。かわいそうではある。

物的証拠がないため、こじつけ感がある

証拠至上主義の人からすると、ジオラマから事件を推理する展開は受け入れがたいものがあるでしょう。
僕自身、読んでいて「その解釈はいくらなんでもこじつけだろう」と思うものが多々ありました。

後から証拠が集まりますが、どうにも後付けに感じてしまいます。
それで事件を暴くもんだから読者も警察と一緒になって渡部を疑う始末。

堅実な推理を求める方に本書は向いていません。

紙やプラモに造詣が深くなる

今までこんなに紙に言及した小説を見たことがない。
コート紙や未晒パルプなど、あらゆる紙の知識が本書で身に付きます。

なお、紙鑑定士は架空の職業のようです。
渡部は紙商もしているので、そちらをメインに考えたほうがリアリティがありそう。

また、相棒兼ホームズ役の土生井からプラモデルやジオラマの知識もどんどん吸収できます。
ぶっちゃけ半分も理解できませんでしたが、興味のとっかかりとしてはアリと思う。

クライマックス

なぜか警察との追いかけっこが始まります。
捕まっては事件が最悪の結末を迎えてしまう。渡部の一世一代の大冒険が始まります。

土生井の推理はあっていたのか。間違っていれば、すべてがムダになる。
そんな緊張感のあるクライマックスです。

先が全く読めず、最後までドキドキする展開を味わうことができました。

まとめ

今までに読んだことのない独特な切り口の推理小説。
何から何まで新鮮なので、新鮮さを求める人にオススメ。

一方でご都合主義感がぬぐえず、決められたレールに沿って話が進んでいると感じました。
警察小説好きには向いていないでしょうね。まあ、主人公はただの紙商だから仕方ない。

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