作品情報
作者:太田愛
出版社:角川文庫
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雑感
骨太の推理小説。
シリーズ作品の2つ目となっており、ところどころ前作に絡む話が出てきます。
可能なら前作から読んだ方が良いかもしれません。まあ、僕は本作から読みましたが。
容疑者家族の人生や法曹界の問題に焦点を当てた社会派小説として抜群の内容でした。
特にクライマックスの怒涛の展開とエピローグのビターエンドは一読の価値があります。
登場人物
興信所の鑓水と修司のノリが軽く、題材の割に暗くなりません。
烏賊川市シリーズの戸村と鵜飼に割と近い。もちろん決めるところはしっかり決めます。
堅物刑事の相馬もツッコミ役として申し分なしと主要人物は素晴らしいの一言。
一方で法曹界の腐敗を描いているため、警察(相馬以外)・検事・裁判官のふるまいが軒並み胸糞悪いです。
すかっとする展開は少な目で終わる為、この辺はモヤモヤしました。
まあ、そういうテーマだから仕方ないね。
事件
容疑者家族の生きづらさ。そして、小さな幸せ
本作は2つの時代が交錯しています。
- 少年時代の相馬が水沢兄弟と過ごしたひと夏
- その23年後に発生した少女失踪事件
関係ないように見えた2つの事件の共通点が次第に見えてくるのですが、その過程で水沢家の壮絶な人生が暴かれます。
水沢家は父親が殺人の有罪判決を受けており、母とともに各地を転々と逃げ回っていたのです。
世間の目はもちろん親戚からも弾かれながらも懸命に生きる家族。
しかし、そんな辛い状況でも3人は確かに幸せに暮らしていました。
ところが、とある事実が発覚し、かろうじて保たれていた水沢家の平和は崩壊することに。
あまりにも救いがない展開。なぜ彼らがこんな目に合わないといけないのか。
人が犯した罪は、正しく裁かれ、正しく償われるのか?
小説裏の粗筋より
この意味を強く感じることになります。
以上のように、容疑者家族にスポットを当てた作品として読みごたえがありました。
徹底的な聞き込みと探偵の閃きで真実に近づく
鑓水・修二・相馬の全員が本当に優秀。
少ない手がかりから次々の新情報を見つける展開は読んでいて非常に気持ち良い。
各々の得意分野や知識を活かして、様々なアプローチをしかけていきます。
聞き込みの仕方にも個性があるため、地取り調査による捜査が好きな人にオススメです。
クライマックス
誘拐事件で犯人を捕まえる怒涛の展開は非常に熱いものがあります。
まさに総力戦と言う感じ。持てる人脈は知略を全てぶつけています。
しかし、本作の肝はエピローグにあると言えます。クライマックスはあくまで前菜でした。
これからどうなるんだろうな…。そんな気持ちにさせられるエピローグです。
23年前の水沢尚失踪事件から始まり、少女誘拐事件という結末を迎えた一連のストーリー。
あまりにも辛いクライマックスに何を想うか人それぞれなのでしょう。
少なくとも僕は帯の「感涙のミステリー」ってのは納得しかねました。まあ、救いはあったけどさ…あったか?
まとめ
間違いなく傑作。500ページ弱の長編でありながら2日かけて一気読みしてしまいました。
綺麗に終わっており、後味もそんなに悪くありません。
しかし、よくよく考えると救いなんて何1つ無いようにも見えるわけで。
読み手によって結末に感じるものは異なると思います。でも、読んでほしいな。