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作品情報

作者:方丈貴恵
出版社:創元推理文庫

総評

異形の化け物が登場する特殊設定ミステリ。
何から何まで新しく、設定に矛盾が見当たらない良書でした。

ただ、導入が雑に感じました。
異常事態に対する主人公の適応力がおかしいんですよね。何も知らないはずなのに。

面白いけどモヤモヤするんだよなぁ。そら三雲に妄想力がおかしいと言われるわ。

なお、竜泉家の一族の第2作となります。
とはいえ前作との関連はありませんので、本作から読んでも問題ありません。

粗筋

復讐のために準備をしたはずが

幼馴染を死に追いやった3人を殺すため、無人島ロケに参加した竜泉。
念入りに計画を立て、後は運を天に任せるだけとなりました。

ところが、決行直前にターゲットの1人が何者かに殺害されています。

このままでは復讐を横取りされてしまう。竜泉は復讐より先に探偵として犯人を捜す羽目になりました。

人間に紛れたUMAを探し出せ

調べていくうちに竜泉はこれが人為的に不可能な殺害現場であることを看破します。
となれば、犯人はUMAでしかありえない。

他のメンバーはその結論に最初は納得できませんでしたが、竜泉の合理的な説明に納得するしかありませんでした。
UMAをは人間の全滅を狙っている。その前に見つけて退治しなくてはならない。

こうして絶海の孤島で人間VS化物の心理戦が始まるのでした。

事件

主人公から化け物の存在を看破する違和感

これが島出身の三雲なら分かったんですよ。
父親からUMAの正体や対策を聞いていましたから。異常現象を看破する材料があります。

しかし、竜泉は部外者ですし、別に普段から超常現象を経験しているわけではありません。

なのに、最初の死体を見ただけで、これがUMAの仕業を看破しました。なんでやねん。

どんなにあり得ないことでも起こり得る

31ページより抜粋

という竜泉家の家訓がある故でしょうが、だからってUMAの可能性を考慮に入れるには説得力が薄いと思いました。
せめて「時空旅行者の砂時計」の顛末を知っていれば納得したのに。

矛盾の無い設定が化け物との戦いに緊張感を産む

特殊設定を受け入れられたなら推理自体は面白い。
誰がUMAか分からない疑心暗鬼の状況が実に良いんですわ。

実行犯はUMAで確定しているわけですので、化け物を見つけることがゴールになります。

アプローチ方法
  1. トリックを見破り論理的に追い詰める
  2. UMAの弱点を攻めて物理的に追い詰める

2番の手法は普通のミステリーでは中々お目にかかれません。
まあ、UMAの設定がいくらなんでもご都合過ぎると思いましたが、細部まで決めないと矛盾が生じるから仕方ない。

クライマックス

何から何まで新しい。
人間に擬態するという観点では寄生獣に近いものを感じます。

設定も考え抜いており、大きな矛盾は見つかりません。
神話風の伝承も残っているため若干のクトゥルフ味もあるかな。

まとめ

完全なファンタジーですが、内容はしっかり推理小説で面白い。

ただし、常識が通用しないので、特殊設定を受け入れる必要があります。
スタンダードな推理小説が好きな人にはとことん合わないですね。

人間の悪意で事件を起こしているという点で、同じ特殊設定でも屍人荘の殺人の方が受け入れやすいかもしれない。

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