作品情報
作者:堂場瞬一
出版社:文春文庫
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雑感
ホワイダニット特化作品。
序盤から犯人が分かっており殺害方法も明確です。
ただ1つ分からない動機を追うことが本書の全てと言っても良いでしょう。
加害者と被害者の過去を60年もさかのぼり、あらゆる可能性を追う。
まさに刑事小説の本領発揮と言わんばかりの徹底的かつ地道な調査が続きます。
シリーズ作品なので知らない登場人物もいますが、本書から読んでも十分に楽しめました。
高齢者が事件に関わっているという点では「震える天秤」も同様ですね。
あちらは社会問題がテーマなので、毛色は異なりますが。
粗筋
87歳の男性が殺害され、数日後に同い年の男性が出頭してきた。
犯人しか知りえない情報をいくつも知っており、犯人なのが疑いもない。
しかし、動機だけが分からず、容疑者も一向に語ろうとしなかった。
被害者は高齢のため施設に入居中。強盗殺人はありえない。
彼の過去を洗っても悪い評判は聞かない。そもそも加害者との接点が見つからない。
いったいどこに事件の核が潜んでいるのか。岩倉達が全容を明かすべく捜査に乗り出すのだった。
登場人物
人間模様が生々しい。
上層部との軋轢はあるあるですが、本書ではそれとは別の怖さがありました。
主人公の岩倉が上司として非常に生々しいんですよね。
表向きは誰にでも優しいですが、内心では冷徹に評価しています。
あいつは使えないから見限る、あいつは優秀だから伸びるぞ。
社会人が読むと事件とは別方向でメンタルにダメージを受けるでしょう。特に戸澤への評価が辛辣。
しっかり怒ってくれない上司がいかに恐ろしいか。若い社会人に読んでほしい気もする。
僕個人としては、岩倉みたいな上司は好きになれないっすなぁ。刑事としては優秀なんだけどね。
事件
聞き込み調査を無限に楽しめる
高齢が故に見えない動機が岩倉たちを惑わせます。
加害者と容疑者の間には「半世紀前の砂川闘争」という細い繋がりが見えました。
しかし、そんな昔に何かがあったとして、なぜ今になって殺人を行うのか。
他に原因があるのでは。どこかで出会っていたのではないか。
老人たちの長い人生を全て掘り返す途方もない調査が警察を追い詰めるのです。
歴史が長い分、聞き取り調査の対象も膨大。
警察組織の人海戦術の真骨頂とも言えるでしょう。
予想外の驚きは一切ない
いかんせん分からないのが動機だけなので、衝撃はありません。
そういうのはトリックや犯人の十八番ですからね。
事件自体もありきたり。動機が分からなくても起訴自体はできます。
警察に追い詰められた雰囲気もなく、盛り上がりに欠ける部分はありました。
クライマックス
胸糞ではある。
とはいえ、主人公が当事者の小説に比べるとはるかにマシ。
特定職種への偏見を助長させる可能性があるのが気になると言えば気になります。
まあ、フィクションだからね。そこを気にしても仕方ない。
想像外の動機なのは間違いないので、ホワイダニット好きは楽しみにしてください。
まとめ
淡々とした刑事小説。これぞって感じはする。
ホワイダニット特化&87歳が容疑者ってのは中々ない珍しいので、読んでみて損はしない。