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作品情報

作者:井上真偽
出版社:幻冬舎文庫

雑感

なるほどなあ。すごい綺麗に着地したなあ。
終盤までに溜めに溜めたフラストレーションが一気に無くなった爽快感がありました。

でも、これを「どんでん返し」と評するのは違う気もする。確かに予想外ではあったけど、これ以外の結末は考えられない。

「こんなの予想つかない」という驚きではなく「どうして気付けなかったんだろう」という戸惑いが大きかった。それだけ巧みな内容であるのは間違いありません。

人間の強さを最後まで描き切ったヒューマンドラマとして申し分のない内容でした。

粗筋

かつて水難事故で兄を亡くした高木はドローンビジネスを手掛けるベンチャー企業に就職し、災害救助用ドローン「アリアドネ」の熟練者として初心者への実技指導を行っていた。それが今度こそ誰かを守れる男になるための彼なりの決断だった。

そして、その時は訪れた。未曽有の大地震により地下都市に閉じ込められた女性の救出。しかし、女性は「見えない、聞こえない、話せない」の三重苦を抱えており、普通の手段では助け出すことはできない。

崩壊間際で救急隊員を彼女の元に送ることはできない。そこでアリアドネで誘導する案が浮上、高木にその大役が任されることとなった。

猶予は6時間。今度こそ誰かを助けるために高木は前代未聞の救出劇に挑戦する。

登場人物

高木

最新式の災害救助用ドローンを操縦できる唯一の人物。兄を助けられなかった自責の念と、兄の死で体調を崩した母への責任感で自分を縛り続けている

フラストレーションを溜めるためでしょうが、クライマックスまで高木への試練が多すぎる。

本人には一切の責任はないものの「助けられたかもしれない兄の死」と「兄の死でメンタル不調になった母」の2人の想いを背負って生きているだけでもかなりつらい。

さらに元同級生で彼と同じように家庭環境に苦しんでいる韮澤からヘイトを執拗にぶつけられ続け、メンタルは限界。いちいち彼女の口撃がクリティカルヒットするもんだから質が悪い。

挙句の果てには大規模地震で閉じ込められた障害者の中川博美に関して、救助中にも拘わらずマスコミから追及される始末。

高木自身はいたって好青年なので、読んでいて苦しくなりました。もちろん味方もいますが、敵が強すぎる。特に韮澤。

最後にはしっかり報われるのでそれまでは辛抱強く読んでください。

事件

ドローンを駆使した緊張感のあるレスキュー

「見えない、聞こえない、話せない」状態の女性をどうやって救うか。まずはこれを考えながら読んでもらいたい。

僕は恥ずかしながら全く想像できませんでしたが、かなり説得力のある手段で彼女を導いています。
道中で何度もトラブルが発生してもすぐに次善策を口実。救助活動のプロが集まっており、その手腕には感嘆するばかりです。

救助用ドローンならではの仕組み(電波障害やサーモグラフィー)もふんだんに盛り込んでおり、最後まで緊張感を持って読むことができました。

過去に決着をつけられるか。遭難者を信じ切れるか

高木のスキルは文句なしの分、彼のメンタルは何度も揺さぶられます。
詳しくは登場人物の項目で話していますが、彼が過去と向き合うことが主題の1つです。

また、障害者の中川博美を信じ切られるかも物語に大きく絡んでいきます。

それが本書のミステリー部分。果たして彼女は本当に障害者なのか?この疑問が救助者の間で常に渦巻いています。

これは災害前から疑問視されていたものでマスコミも嗅ぎまわり続けています。彼女は権力者の娘であり、障害者であることを利用して世論を誘導しているのではと思われているわけです。

果たして真実はどうなのか。ぜひ読みながら考えてみてください。

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