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作品情報

作者:前川裕
出版社:光文社文庫
販売店:

雑感

マジで胸糞悪いな、これ。

ノンフィクション風の作風となっており、雑誌や新聞を読んでる気分になります。

とにかく客観的に未解決事件を追うので、登場人物に感情移入することはありません。
そのため、当事者が主人公の作品と比べると直接的な不快感はないでしょう。

ただ、一向に解決を見せない事件、次々と死んでいく関係者。
そして、事件自体の陰惨さがジワジワと読者の心を蝕んでいきます。

最後まですっきりしないので、覚悟を持って読みましょう。

粗筋

夫婦が大量の血痕を残して失踪した川口事件。

事件時に在宅していた家族の内、長男の戸田達也が容疑者として起訴される。
しかし、証拠不十分で無罪が確定。事件は未解決となってしまった。

このまま事件は風化するのか。夫婦は見つからないままなのか。

当時から事件を追っていたフリーライターの杉山は事件の真実を見つけるべく、10数年にわたって未解決事件と向き合うことになる。

果たして彼の行き着く先はどこか。そこに正義はあるのか。

登場人物

登場人物に愛着を持てる作品ではない。
意図的に感情移入しにくいキャラ描写をしているようです。

真実意外に興味を持たないフリーライターが主人公

杉山の私生活は一切明かされず、ひたすらに事件を追い続けるだけの人物です。

なので、彼個人よりマスコミをどう感じるかが本書の肝となるのかもしれません。

穏やかで冷静な人物に見えますが、どこか機械的で冷たい人間にも見えてきます。要するにつかみどころがない。

ていうか、関係者全員の心にどんどん踏み込んでいますからね。そら被害者の弁護士とも険悪になるわなと。

彼は果たしてマス「ゴミ」なのか。それともジャーナリストなのか。
読者に判断が委ねられていると言えるでしょう。

登場人物の裏の顔が一切見えない不気味さ

どいつもこいつも本音で話さないので、どうにも気持ち悪い。
いよいよ怪しいとなった時も本音を話すより消えることを選ぶ始末。

もはや事件を通して誰が苦しみ、あるいは喜んでいるのかさっぱり分かりません。

まあ、語り手がマスコミの杉山だからなぁ。そら心情まで突き止められないよなと。

事件

残酷で胸糞の悪い未解決事件に耐えられるか

本書を読む前に「おせんころがし殺人事件」を調べてみてください。
ここに書くのも嫌なぐらいに凄惨な内容ですが、本書の事件も似たり寄ったりです。

本書は未解決事件ということで、いつまでたっても解決しないのも辛い。
杉山が10数年も本事件に関わっていますからね。死者も浮かばれねえよ。

グロテスクというのではなく、人間悪の結晶みたいな内容なので耐えられない人は多そう。

被害者を取り巻く関係者の秘密が曝け出される

杉山が徹底的に聞き込みを行うため、登場人物の過去は浮き彫りになります。
特に失踪した戸田碧の周辺の分析が細かく、恋愛遍歴をこれでもかと調べていきます。

最後まで分からないのは登場人物の心情のみ。それ以外は全て明かされるのです。

なお、今回の事件で物的証拠はほとんど得られません。
そのため、杉山がどれだけ入念に調べようと確証が得られないのです。

どこまでいっても憶測止まり。そういったモヤモヤは最後までついて回ります。

クライマックス

それぞれの視点で物語を読み直したいと思った。それほどまでに目まぐるしく状況が変わる。
感じ方が読者によって全く違う結末だとも思います。

特にラストである人物が杉山に向けて言った言葉の意味。
素直に読むならマスコミ=悪なんしょでうが、果たして本当にそうなのか。うーん、分からん。

杉山のせいで追い詰められた人がいたのは事実。しかし、ならばマスコミの意義はなんなのかと。
色々と考えさせられる作品です。

すっきりしない結末なので、爽快感を期待しないように。そういう作品じゃない。

まとめ

モヤモヤとした胸糞の悪い作品。

とはいえ尾を引くほどではないので、ミステリー小説を嗜んでいる人なら耐えられると思います。
ただし、「おせんころがし殺人事件」の内容を直視できる人だけ。

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