目次
作品情報
作者:今野敏
出版社:集英社
粗筋
20年前の大学生の自殺の真実を解明せよ
本作の主人公は黒田・谷口の特命捜査対策室の2人。
すでに終わった事件の継続捜査を行っています。
それを知った捜査二課の多岐川が「20年前の大学生の自殺」の継続捜査を依頼してきます。
その大学生の名前は春日井信之。当時運営されていたサークルSSに所属していました。
そのSSがきな臭く、実態はネズミ講だったそうです。
しかし、それ以上は詳しく教えてくれません。誰かに忖度しているのか。答えを渋っているのです。
どうもIT長者の藤巻が関わっているようですが…。
いったいどんな闇を抱えた事件なのか。黒田達は霧に包まれた事件に挑むのでした。
警察の黒田とニュース番組デスクの鳩村の2つの視点で描かれる
黒田とは別に鳩村が受け持つニュース番組「ニュースイレブン」でも不安の種が芽吹きを上げていました。
それは番組が終了されるという噂。出所が分からない不気味な内容に鳩村も不安を感じます。
同僚と話すうちにIT長者の藤巻が報道キャスターの香山を狙っており、その手段として番組を打ち切らせるのではという推論があがります。
いくらなんでも一個人にそんなことができるわけがない。しかし、鳩村の不安がぬぐえません。
報道記者の布施から情報を聞きつつ、彼独自の考察を始めるのでした。
以上のように黒田と鳩村で全く異なる展開ですが、その中心人物はいずれも藤巻です。
いったいこの2つの出来事は関係がないのか。それとも1つの真実に収束するのか。
序盤からワクワクが止まりません。
真実を話している人は誰なのか
20年前ということもあって物的証拠はほとんど残っていません。
必然的に当時を知る人物に話を聞いていくことになります。
- 20年前の自殺が政治犯罪に関係あると疑っている多岐川刑事
- 20年前の自殺が他殺だと確信している寺岡元刑事
- 情報を知りすぎている報道記者の布施
- IT長者で事件の中心にいる藤巻
その他もあらゆる人物から情報を集めますが、いまいち整合性が取れません。
誰かが嘘をついているのではないか。たばかられているのではないか。
それを知るために黒田達は更なる聞き込みを行うことになります。
番組キャスターの誘拐から物語はクライマックスを迎える
真偽は不明なものの情報がある程度集まったころ、ニュースイレブンの番組キャスター香山が誘拐されます。
彼女は藤巻のお気に入りで、布施の同僚。
この誘拐は間違いなく藤巻が関わっている。布施のSOSで黒田達は香山の捜索を始めます。
彼女の発見と同時に明かされる真実。それはあまりにも予想外なものでした。
- 果たして20年前に春日井を殺害したのは誰なのか。
- 誰が香山を誘拐したのか。
- 嘘を話したのは誰か。
今までの情報が1つに収束する様は中々に圧巻です。
見所
トリックはなく、一般的な推理小説ではない
あくまで人間模様の解明が全てであり、トリック要素は1つもありません。
どんどん疑心暗鬼に陥る点ではサスペンスっぽさありますけどね。一応は殺人もあるし。
まあ、いずれにせよトリック目的で読む作品ではありません。
筆者の伝えたいこと
本書は物的証拠がないため「人づての情報」だけが頼りです。
しかし、真実を伝えているかどうかは本人にしか分かりません。
後から嘘だと分かったり信用していない情報が真実だったりします。
主観で判断するとあっという間に足を掬われる。そんな展開が続きました。
暗に情報を真に受けるのではなく、自分でしっかり判断しろ。そう筆者は言いたいのだと感じましたね。
情報が氾濫してそれに踊らされる我々への警告なのかもしれません。
まとめ
異色の推理小説として面白く、真実の究明にすっきりとするものがありました。
シリアスですが、重い展開もそんなになくサクっと読める良書ですな。