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作品情報

作者:堂場瞬一
出版社:角川文庫

雑感

刑事小説として屈指の出来。その分ボリュームがあり、2日程度で読了。
結末は苦しいものがあるが、予想の中では一番ましか。後味もそこまで悪くない。

粗筋

やはり警察小説は素晴らしい。推理小説の原点という感じがする。

警察小説に求める全てが本書に収まっています。読む手が止まらないんだわ。

上條の失態で未解決事件となった誘拐殺人事件

地方都市の北嶺で起きた中学生の誘拐事件。
上條の失態で身代金の受け渡しは中止となり、少年は戻ってないまま事件は未解決で幕を閉じます。

このミスで警察署内で築き上げていた信頼は失墜し、もともとワンマンプレーで煙たがられていたこともあり、完全に孤立することに。

勤務地も変えられ、上條は事件から手を引かされます。少年はどこかで生きているだろう。かすかな望みを抱き、上条はそれを甘んじて受け入れて誘拐事件を忘れることにしました。

しかし、誘拐された少年の白骨遺体が発見されたことを契機に上条は強引な手段で北嶺に戻ります。

これは俺の事件だ。俺にしか解決できない。後悔、プライド、使命感。様々な思いを抱いて彼は事件に臨むのでした。

故郷で出会う知人たちと上条はどう向き合うのか

北嶺は上條の故郷でもあり、甘い青春と苦い後悔に囚われることになります。

登場人物
  • 初恋の女性
  • 放任した息子
  • 息子を引き取った義父
  • 極道となった友人
  • 医師となった友人
  • 父の親友だった店主

事件を通じて、上条は自身の過去にも向き合うことになるのです。

こんなに嫌っていた北嶺で揺さぶられる心。
刑事として、1人の男として彼は何を得るのか。見えない問いへの答えも探さなければなりません。

こうして上條の刑事人生と自分の人生を懸けた事件が再び幕を開けるのでした。

トリック・捜査内容

足で捜査する刑事の基本に忠実なTHE推理小説

とにかく足。机上であれこれ考えても状況は変わらない。とにかく関係者と対話し、情報をつかみ取るのだ。

自分が見た情報以外は信じない信条の上條は己の足で、事件の再検証を行います。
500ページを超える本書の大部分はこの調査に費やされます。

同じ人に何度も会い、新たな証言を引き出そうとすることもあります。
アウトローな方法(情報屋、ヤクザ)で情報を集めることもあります。

天才的な発想であっと驚く推理はありません。行動に伴った結果がかえってくるのみ。

警察小説としてこれほど完成度の高い書籍も中々ないでしょう。

刑事としての葛藤も抱える

ただの刑事小説にはとどまらない。
過去を通じて、刑事としての在り方も考えるようになります。

影響を与えたのが保護をした少年。仲間内で暴行をしていたところを保護します。
その後、なぜか見捨てることができずに彼は少年の世話を続けることに。

大部分は調査と言いましたが、その残りは少年との触れ合いです。

刑事としては無駄とも思える行動。しかし、これが事件を思わぬ方向に動かします。

  • なぜ少年は暴行されていたのか
  • なぜ俺は見捨てずに世話をしているのか

一見して関係のない誘拐事件と暴行事件が交差するとき、事件は解決するのです。

クライマックス

犯人との決戦に向けた緊張のラスト

中盤までの地道な調査の反動か。ラストの怒涛なアクションは手に汗を握る。
犯人を追い詰めた上條の執念の逮捕劇と言うのでしょうか。

刑事としての生き方にも答えを出し、彼は誘拐事件を解決に導きます。

まさにこれまでの集大成。結末を見逃すな!

ハッピーエンドにはならない悲しき結末

すべてをないがしろにして事件を追い続けた上條。
その果てにあるのは希望ではありません。「逮捕」した結果のみです。

刑事としてならこれで良いのでしょう。しかし、上條はこの事件に「人としての自分の在り方」の答えも探していました。

その答えを導いた最後。果たして彼は自分に納得できたのか。
何を捨て、何を得たのか。結末に全ての答えがあります。

まとめ

刑事小説として完璧な作品。
そのため、良くも悪くも地味な展開が続きがちとなります。

奇想天外なトリックを求めてる人は早々に挫折すると思いますね。僕は大好きだよ。

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