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作品情報

作者:塩田武士
出版社:講談社文庫
販売店:

雑感

マスコミの矜持を見せつけられる良書。
彼らだからこそ真相を暴けた。世間一般で叩かれるマスコミ像を持っている人ほど、彼らの生きざまに感銘を受ける事でしょう。

未解決事件であり、悪を今になって断罪することは法律的に困難です。
そのため、水戸黄門的な爽快感は一切ありません。

中盤までは進展が遅く、小説初心者には厳しい読み物と言えるかもしれません。

ですが、真相を暴く道程が丁寧で納得できるものがあり、未解決事件小説として屈指の完成度なのも確かです。

未解決事件好きにはぜひ読んでもらいたいですね。

粗筋

31年前、日本を震撼させた大企業連続脅迫事件。通称「ギン萬事件」。

大日新聞はその事件の特集を計画。阿久津もチームに入ることになりました。
調査は難航しましたが、賢明な努力と運の良さもあり、次第に真相が見えてきます。

しかし、真相に近づくにつれ、阿久津は自問します。
今になって未解決事件を暴くことは人を不幸にするだけではないか。この取材に意味があるのか。

時を同じくして、父親の寝室で「未解決事件で使われていた音声テープ」を見つけたテーラーの曽根。
それが幼少期の自分の声だと気づき、独自に調査を始めました。

父親が事件に関係していたのか。俺は大勢の人生を台無しにした上で生きてきたのか。

そして、2人の男がたどり着く真相。そこから彼らは何を感じ、行動するのでしょうか。

登場人物

曽根俊也

妻子と実母との4人暮らし。テーラーで生計を立てている。
実直な人間で、不安要素を放置しておけない。

阿久津英二

大日新聞の記者。
日々なんとなく生きてきたが、ギン萬事件を通してジャーナリズムの役割を考えるようになる。

特に阿久津の描写が細かい。感情移入するなら彼になるでしょう。
世間一般では風当たりが強く、小説でも悪者役が多いマスコミ。本書は彼の等身大の姿を描いています。

マスコミに悪いイメージを持っている人ほど読んでもらいたい小説だと感じました。

きれいごとだけではありません。時には聞き込みの際に怒鳴られることもあります。
読んでいて、やりすぎではと感じる事もありました。

ですが、真相を掴みたい熱意は間違いなく、そんな彼だからこそ未解決事件の真相が見えたのです。

まだまだマスコミとして未熟な阿久津の成長譚として読みごたえがあり、彼の情熱に読者も心が動かされることでしょう。

事件

事件に狂わされた人の悲嘆

世間では終わった事件ですが、狂わされた人の人生は続いています。
今なお事件を鮮明に覚えており、取材する阿久津に心情を吐露しました。

事件を境に蒸発した人物の教師や友人は後悔を引きずり、犯人グループの関係者は誰もが闇を抱えている。

本書は未解決事件が関係者に落とした影を克明に描いているのです。

地道な聞き込みで近づく真実

500ページとそこそこのページ数ということもあり、真相に至るまでの道のりを丁寧に描いています。
進んでは戻りの繰り返し。中盤までは進展の遅さで読むのに苦労しました。

しかし、未解決事件だから簡単に解決しては納得できないでしょう。

事実、紆余曲折の末に真実を知った時の達成感は格別。阿久津と読者である僕の気持ちが一緒になった気持ちでした。

辛抱強く読み進めた先に確かな結果があります。

クライマックス

こうオチを付けたか。なるほどな。
阿久津が考えていた「未解決事件を暴く意味」。その集大成となります。

同じく事件を追っていた曽根も自分なりに区切りをつけ、前を向くことに。

すでに終わった事件であり、失った時間は戻りません。
そんな中でも少しでも光を求める彼らを心から応援したいと思った。

ベストではない。ベターでもないかもしれない。でも、これをバットと呼びたくない。そんな結末です。

まとめ

完成度の高い未解決事件小説。
読破までは大変ですが、それに見合う読後感はあります。

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