作品情報
作者:松嶋智左
出版社:集英社文庫
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雑感
- 警察組織の連携を楽しめる
- 人と人の確かな信頼関係を感じられる
警察が活躍しとるやんけ!
警察小説というと「無能な上層部を無視して孤軍奮闘する主人公」ってのが王道ですが、本作はしっかり連携してます。
- 立てこもり犯との交渉担当
- 事件の真相を追うための聞き込み調査
癖が強い面々ばかりですが、全員が優秀で安心感があります。
事件自体は立てこもり犯がひた隠しに謎を暴くといった内容で、これも面白い。
緊迫感もあり、最後まで飽きずに読み進めました。
そうそう、こういうので良いんだよって内容。
登場人物
変人で有名な警備部長。
頭脳明晰であり、少ない情報から的確に分析する能力を持つ。
占拠された館内に取り残され、内部から事件解明に動く。
ノンキャリの警備一課長。
一見すると普通のサラリーマンだが、凄腕の人間として周囲から畏怖されている。
内部の孔泉と連携して、外から事件解明に動く。
現役の女性副知事。
感情的な言動が目立つが、本来は正義感が強く義理堅い。
孔泉と同様に館内に取り残される。
孔泉も玖理子も人に誤解されやすい性格をしています。
組織によっては爪弾きにされても仕方ない。
それでも周囲に1人でも理解してくれる人がいる。それが彼らの救いになっていました。
本作はそんな人と人の繋がりの大事さを書いています。
特に孔泉と立川の信頼関係が良いんですよね。
立川はしっかりと孔泉の良さと悩みを理解しています。こういう人が近くにいると救われるよな。
気になる点として、他2人が優秀過ぎて玖理子1人が足引っ張り役になっています。
そのせいで読んでいるとヘイトがどうしても彼女に集中することに。
言葉は悪いですが、感情的で融通の利かないステレオタイプな女性像になっていました。
事件
新設の美術館の立てこもり事件。容疑者は狐のお面をつけた集団である。
占拠された施設で逃げる緊張感
孔泉と玖理子は未だに犯人に見つかっていません。
しかし、副知事は交渉材料に使われ、警察は危険分子として殺されかねない。
見つかってはいけない。そんな絶望的なスニーキングが展開されます。
特に孔泉は立川と連携していますので、犯人に繋がる情報を手に入れる必要があります。
逃げながらも犯人について調べる手に汗を握る攻防が本書の醍醐味と言えるでしょう。
外に待機する立川が事件の全容を掴む
しかし、孔泉は単独であり出来ることは限られています。
立川は彼からの情報を最大限活用し、あらゆる調査を人海戦術で行っていくのです。
警察組織のすさまじさ。一部も無駄のない確かな連携を見せつけてくれます。
警察小説はどうしても「組織のいがみ合い」メインになりがち。
その中でしっかり連携している本書は珍しい内容と言えるかもしれません。
クライマックス
ついに追い詰められる孔泉たち。
しかし、彼らも無策で逃げ回っていたわけではありません。
それに孔泉を信じて、立川もすぐ外に部下を待機させています。
最後には怒涛の救出劇が展開されるので、ご期待ください。
ただ、事件はそれだけでは終わっていない。
なぜテロを起こしたのか。その疑念を立川は解決しようとしていました。
いったい真実は何か。それもラストに全て分かります。
考察:ブラックバイトの悲哀
ブラックバイトの惨状を描いているのではなかろうか。
集められた狐面の男たち。
彼らは「陶芸家の罪の告白」と「身代金の要求」をしました。
ただ、身代金に関してはどう考えても成功するわけがありません。
建物に籠城している彼らに移動手段はなし。
銃持ちは2人だけですし、周囲は警察が包囲してます。
それなのにリーダー格の男の言葉を信用して、金の使い道を考えてますからね。
下っ端は使い走りとして呼ばれただけであり、最初から切り捨てる予定なのでしょう。
これはまさにブラックバイトそのもの。
甘い言葉でだまし、土壇場で切り捨てる。だまされた若者に残るのは前科だけです。
まあ、命があるだけましかもしれません。
そういう視点で見ると犯人グループが哀れに見えてきます。