
作品情報
作者:柚月裕子
出版社:小学館文庫
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雑感
ただただ苦しい。どうしてこうなったんだと。後悔だけが胸中を駆け巡りました。
最初から最後まで何もありません。ある家族の不幸の螺旋が続くだけです。
それでも何か1つぐらいは救いがあってほしい。香純の行動が今は亡き母娘の慰めになっていればと心から願います。
間違いなく人を選ぶ。それでもラストは自然と涙が溢れる。そんな良書です。
粗筋
「約束は守ったよ、褒めて」
我が子を含む女児2人を殺害した死刑囚三原響子の刑が執行された。
遺品の届け先は吉沢香純とその母。関りを頑なに拒んでいた母も遺骨だけは断れきれなかったようだ。
しかし、本家の人間は死刑囚の遺骨を墓に入れることを許さない。納骨先がないのだ。
それは当然の反応かもしれない。血も涙もない毒親なのだから。
ただ、香純は「世間の報道する響子」と「自分が1度だけ会った響子」が重ならないことに疑問を持つ。
なぜ彼女は2人も殺したのか。香純は何かに導かれるままに響子の故郷を訪ねるのだった。
登場人物

何事もそつなくこなすが、情熱を持てずに仕事や人間関係が長続きしない。なぜか響子の人生に強い興味を抱き、母の反対を押し切って彼女の故郷に赴く

娘と1人の少女を殺害した死刑囚。刑は執行済み。世間では極悪人と報道されているが、刑務所では模範囚だったと言う。
香純が本当に癒し。事件と全く関わりなかったからこそ関係者の心の闇を晴らせるのでしょう。
響子が起こした事件は多くの人に暗い影を落としました。そして、忘れようとしました。
でも、香純がそこに変化を与えます。口を固く閉ざしていた人たちも彼女の想いを組んで、秘密を打ち明けてくれるようになるのです。
香純と響子の違いは何なのか。香純自身の自問ですが、環境が違えば2人は真逆だったかもしれません。
そう考えながら読むと2人の生き方に感じ入るものがあります。
事件
動機を探す長い旅路
これは全て終わった物語。
警察の捜査に疑いはありませんし、響子も自供しています。冤罪ではありません。
刑も執行されており、世間にとっては終わった事件なのです。
ただし、動機だけは分からないままでした。なぜ2人も殺したのか判然としません。
娘は栄養失調で服装もみすぼらしかったためネグレクトの末の犯行と思われました。
しかし、響子はそれを否定します。結局、分からないままでした。
また、関係のない女児を殺した理由も不明です。もちろん快楽殺人鬼などではありません。
死の間際に残した言葉「約束」が何なのかも分からない。
だから知りたい。
本書は1人の女性が動機を育むまでの長い人生を克明に描いています。
ムラ特有の陰湿な文化
まあまあありがちな村八分問題。
これだけの事件を起こしたので当然ですが、その前から三原家は地域から疎まれていました。
親戚だけじゃないんですよね。狭い町全体が彼女たちを迫害していたんですよ。
仮に味方をしようものなら今度は自分たちが迫害される。表向き、彼女たちの味方は1人もいません。
そんな昔の日本特有の暗さの連続で気分は沈むばかりでした。
しかも何が嫌って本当の悪人はすでに亡くなっているんですよ。後に残ったのはルールに縛られた憐れな人間たちばかり。
出てくる人、みんな憐れ。きっかけ1つで違う人生を歩めたでしょうに。
クライマックス
辛いんだか苦しんだかで感情がぐちゃぐちゃになった。
ただ1つ、よくぞ響子の事件に向き合ってくれたと香純に感謝したい。
彼女の行動で過去も未来も変わりはしません。もう終わっているのですから。
それでも響子の人生に意味を見いだせた。そう思わずにはいられません。
少なくとも僕たち読者は救われています。それは間違いないでしょう。
何を言ってるんだと思うでしょうが、実際にそうなんだから仕方がない。
登場人物だけではなく、読者を救う行動を香純はしてくれたんです。
不覚にもラストは泣きました。あまりにも苦しい結末。それでも何かが残ったはず。
約束を守った響子はきっと褒めてもらえる。そう願ってやみません。
まとめ
救いを求めて一気に読みました。最後の最後に1粒だけ残っていました。
それでも全編を通して苦しみばかりなので、人を選びまくります。
でも、読んでいてよかったと思った。こんなこと言って良いのか分かりませんが、ある種の究極の愛が込められています。