作品情報
作者:染井為人
出版社:角川文庫
雑感
社会派ミステリをうたっている通り、様々な社会問題を取り扱った小説。
一般的なサスペンスと違い、トリックや犯人捜しを楽しむ作品ではありません。
読んだ後、色々と考えさせられる名作でした。
作品テーマ
昨今、社会問題となっている「高齢者の自動車事故」をメインテーマにした作品。
また、それ以外もいくつかの社会的問題を取り扱っています。
- コンビニフランチャイズの事情
- 未成年の危険運転
- マスコミの正義
本作の読了後、様々な思考が駆け巡りした。中々に考えさせられる作品でしたね。
さて、物語開始前にコンビニに老人が車で突っ込み、1人の若者が死亡しました。
それだけなら事故で終わりますが、ここで1つ厄介な問題が生じたのです。そう、責任能力です。
高齢者の責任能力の有無
その老人は痴呆だったのか否か。それを解き明かすことが物語の大部分を占めます。
これは現実でも重要視しており、それによって罪の重さが大きく変わります。
物語中で警察は痴呆で結論づけており、そのまま話が終わろうとしていました。
しかし、フリーライターの俊藤律がそれに疑問を感じます。
- なぜ自宅から遠方のコンビニに行ったのか
- すでに運転をやめていたのに突然になぜ
これが痴呆でなければ故意の事故。つまり、殺人になります。
律は開けてはいけないパンドラの箱の開錠に取り掛かるのです。
未成年の危険運転で残った傷跡
未成年犯罪も昨今、大きな問題となっています。
成人と比べると明らかに低い量刑に遺族は納得できるのか。
あくまでメインは痴呆による事故なので、本作で深くは取り扱いません。
しかし、これも物語に関係する話です。自動車社会の問題の多さが分かりますね。
マスコミは正義か悪か
読んでいると誰もが思うでしょうが、律の強引な取材に驚きます。すげえなと。
相手が「もう終わりにしてくれ」と何度言っても踏み込む姿にちょっとした苛立ちを感じたのは事実です。
ただ、そのおかげで彼だけが事件の真相に近づけたのだからバカにしたものでもありません。
しかし、それは本当に必要だったのか。警察でもない関係者でもない一介のマスコミでしてよいレベルを超えていないか。
それは律自身も感じていることであり、過去のとあるトラウマが彼に何度も迷いを生じさせます。
彼が最後にした決断はマスコミあるいは人として正しいのか。作者は読者にこの答えを委ねているのでしょう。
トリック
特に奇をてらったものではありません。ていうか、トリックらしいトリックはありません。
車がコンビニ突っ込んで死んだのは事実です。あくまでそれの罪の重さの話だけなわけで。
色々と話は転々としますが、それは変わらないのです。
なので、トリックを求めている方には不向きです。
まとめ
純粋なミステリーではありませんが、テーマが身近なのでリアリティがありました。
登場人物がかなり多いので、置いてけぼりにならないように注意。