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作品情報

作者:夕木春央
出版社:角川文庫
販売店:

雑感

あまりにも惨い。

メンタルが弱い人にはオススメしない。後、閉所恐怖症の人にもきついと思います。
読了後は頭がぐちゃぐちゃになってしまいました。後味が…ちょっとね。

ただ、クローズドサークルミステリーしては過去に類を見ないぐらいに斬新で面白い。

フーダニットやホワイダニット小説としても練られており、不満は残りませんでした。

読む覚悟はいる。でも、それだけの価値はある。そんな傑作。

粗筋

巨大な地下施設「方舟」。
柊一は友人らとともに施設で夜を明かしたが、地震の影響で閉じ込められてしまう。

どうにか脱出できないか。調べていくうちに、たった1つだけ脱出経路を発見した。
しかし、その特異な仕組みに一同は戦慄する。誰か1人を犠牲にしないと使えない経路だったのだ。

どうやって選べばよいのか。悩み始めた矢先にまさかの殺人事件が発生する。
普段なら恐怖する場面。しかし、一同はどこか安堵も感じていた。

だったら犠牲にする1人は殺人犯にすれば良いではないか。それなら皆が納得する。

こうして生贄にするための殺人犯探しが始まるのだった。

登場人物

語り手の柊一。そして、探偵役で柊一の従兄弟の翔太郎がメインに物語を進めます。
しかし、彼らでさえ人物描写は薄く、あまり印象に残りません。

それ以外の人間については全くです。
過去描写なんてほとんどありません。せいぜい方舟に訪れた経緯が分かるぐらい。

本作はある種の思考実験であるため、余計な先入観を抱かせないようキャラを薄くさせたのでしょう。

そんなわけで登場人物に感情移入したい人には向いていません。

事件

殺人犯に怯えない異色のミステリー

クローズドサークルミステリーと言えば、登場人物の疑心暗鬼が定番でしょう。
もちろん本書も少なからずあるのですが、警戒はそこまでしていません。

食料などの理由で方舟での生存日数に限りがあり、警戒する余裕なんてないのです。

なんなら殺人犯こそが我々を助けてくれる救世主だと思ってる節も。
犯人捜しの証拠を増やすために自分以外なら何人殺しても構わない。そんな異常な状況になっています。

閉鎖空間で問われる究極の倫理

たった1人を犠牲にしないと助からない状況。

殺人犯が出たことで逆に一致団結しましたが、そうでないと凄惨な争いになっていたはず。
その時、最終的に誰が選ばれたのでしょうか。

子どもは可愛そうだから選べない?ならば、同様に両親も選べないか?
あるいは経歴で選ぶ?高潔で素晴らしい人間を生かすべきではないか?

本作はトロッコ問題に似た倫理的問題を読者に投げかけているのです。

これ以外にも考えさせられるべき命題がいくつも出てきます。
本書を読み終えた後に自分自身に問いかけてみると良いかもしれません。

動機に説得力があるが故の恐怖

倫理的なテーマを持つ作品ですが、ミステリー小説としても屈指の完成度です。
まず動機が分からない。こんな状況でなぜ殺人を起こすんだと。

誰か1人を犠牲にしないといけない状況なのに分母を減らして何の意味があるのか。
常識的には狂っている犯人の思考。しかし、読み進めると矛盾の無い動機が判明しました。

ここで殺人を実行する必要があった。そんな動機が確かにあるのです。

柊一はついぞ分からず犯人に聞くしかありませんでした。
さて、読者のあなたは気づけるでしょうか。

シンプルな事件であり、推理は明快

事件そのものに意外性はありません。
翔太郎も言うように警察が調べれば一発で犯人を特定したことでしょう。

なので、複雑なトリックを求める方には向いていません。

ただ、事件の解決までの道順が非常に丁寧で、読んでいてすっきりしました。
証拠も全て提示されており、分かる人もいるのではないでしょうか。

主要人物がしっかり事件に向き合い、真摯に解決した。王道の展開で僕は安心しました。

クライマックス

うわぁ…ええ…あえええ…?
もうすっごい。思ってた展開と全く違うけど、後味の悪さは想定内で辛い。

何が恐ろしいって殺された人間の方が幸せに見えるんですわ。死は救済。

犯人を特定しても解決ではない。そこから脱出までがセットです。
どうやって犯人に犠牲を強いるのか。その問題を最後まで棚上げしたクライマックスが待っています。

生き残った人間は何を思うのか。犠牲にされた人は何を思うのか。
ぜひ自分の目で確かめてください。

まとめ

あまりにも濃密で救いのないクローズドサークルミステリー。
探偵役の調査や推理はしっかりしており、推理好きにもバッチリです。

個人的には動機が面白かったですね。なるほどなあと。

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