擬傷の鳥はつかまらない【レビュー】~過去を否定するか受け入れるか~
作品情報
作者:荻堂顕
出版社:新潮文庫
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雑感
ここまで登場人物の過去を深堀する作品は中々ないのではなかろうか。
事件としては「少女を探している佐伯という男の捕縛」というしょっぱい内容です。
事件らしい事件ではありませんし、トリックなどあるはずもない。
その一方で佐伯に追われている少女・アンナの深堀がとんでもないことになっています。
主人公の沢渡の合わせ鏡のようになっており、アンナを知ることが間接的に沢渡を知ることになっているのです。
内容はとことん救いがありません。悲劇としか言いようがない。登場人物のほとんどが生き地獄を味わっています。
だからこそ結末は味わい深いものがありました。過去は消せないけど未来は作れるんだなって。
地獄の中であがき続ける人を楽しめる人物描写メインのミステリー作品として申し分のない完成度です。
粗筋
なぜ彼女は自分の過去を捨てようとしているのか。
身分を偽装し、新たな人生を与えることを生業としている沢渡に2人の少女が助けを求めてきた。
ところが、その数日後に1人が転落死を遂げ、残された少女・アンナも謎の男・佐伯に追われていると言う。
暴力団も事件に関わり始め、沢渡はアンナの保護と佐伯の追跡を行うことになった。
調査の末に浮かび上がってきたのはアンナの裏切りとうそにまみれた凄惨な過去、そして、沢渡とアンナの複雑な関係だった。
果たして沢渡はアンナを救えるのか。暴力団から派遣された相棒兼監視役の久保寺とともに事件を追い続ける。
登場人物
依頼者の身分を偽装し別人の人生を与える「嘘の仕立て屋」。裏の世界に通じており、人に決して弱みを見せない
沢渡の人生全てが本書に込められていると言っても過言ではない。
悲惨な境遇の依頼人の心情を慮り、大金と引き換えに手厚い保護を確約するアウトローな仕事人。
彼女自身も凄惨な過去を持っており、それが今を形作ったと言えます。
しかし、それは過去からの逃避でもあり、自分の行動の矛盾に対して常に葛藤していました。
沢渡自身が救われるためにはどうすればよいのか。それが本作のメインテーマです。
依頼人だけではなく沢渡も過去から救う。内容こそ惨いですが人への愛に満ちた作品と言えるでしょう。
事件
依頼者の過去を変える「門」
事件そのものとは関係ありませんが、本書で最も重要な役割を持ちます。
沢渡のみが可能な超常現象であり、門の先には依頼者の過去を変える異世界が広がっているのです。
後は依頼者が受け入れれば異世界の生活がスタート。もう二度と元の世界には戻れません。
開門条件や永住する条件など色々とありますが、とんでも能力なのは間違いないでしょう。
ドラえもんのもしもボックスに近いです。ていうかまんまか。
いきなりファンタジー要素が現れて仰天しましたが、最後の締めに登場するだけなので気にする必要はありません。
アンナの嘘を暴き、本当の彼女を見つけ出す
興信所で恋人の過去を調べるような感じ。アンナの過去を丸裸にしていきます。
なんならこれ以外は全てオマケと言って良いぐらい。それぐらいページ数を割いています。
それだけあって内容はかなりえぐい。嘘にまみれたアンナの真実があまりにも救えません。
彼女自身の行動でどんどん取り返しのつかないことになっているわけですが、彼女だけを責めるのも何か違うよなと。
彼女以外も登場人物全ての過去が悲惨です。救いなんてありません。その辺は覚悟して読んでください。
クライマックス
落としどころはこれしかないだろうなという納得の結末。
ぶっちゃけ何1つ解決していませんが、過去の話をどうすることもできないわけで。
「門」は逃避の1つでしかありませんからね。沢渡もその辺は理解しているのですが、ギリギリまで考えないようにしていました。
過去から逃げるか受け入れるか。悪い言い方をすれば無難な着地ではありますが、後味としては悪くありませんでした。
