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作品情報

作者:内藤了
出版社:角川ホラー文庫

雑感

表紙と出版社に騙されますが、ホラー要素は一切ありません。

なんなら推理小説の中ではかなりマイルドな方です。
今迄に読んだ本の中でも上位に入るぐらいに後味が良い。

なお、刑事小説好きは読まない方が良い。
迷宮入りしそうな事件の調査が主題ですが、実際は清花のメンタルケアです。

ヒューマンドラマチックであり、推理とかそういうのは期待すべきではありません。

彼女の生き方を決めるシリーズ1作目にふさわしい内容と言えます。
朽ちないサクラに似た流れ。

粗筋

剛腕の刑事として恐れられる清花。
行き過ぎた正義もあって警察内では腫物扱いされていました。

また、家庭を顧みないことで夫との関係も悪化。
それでも刑事として生きるために邁進していたのです。

しかし、取り調べた被疑者が勾留中に自殺したことで、彼女は全てを失いました。

警察では責任を取らされ、家庭では夫に離婚を切り出され。
刑事としても妻としても自信を失いかけます。

そんな彼女は新たな部署「警察庁特捜地域潜入班」に飛ばされることになりました。

曰く、未解決事件になる前に事件を解決するための部署だとか。
そこで彼女は「児童連続神隠し事件」の調査を上司の土井と行うことになります。

こうして彼女の価値観や人生観を大きく変える特捜としての初めての仕事が始まるのです。

登場人物

良い奴ばっかで頭が混乱する。

刑事小説でありがちな嫌味な奴が少ない。
最たるは特捜の土井。ヒョーキンな態度を取りながらも確固たる信念を持っています。

清花の旦那や姑も悪い人ではありません。本人も言ってるように家族を顧みなかった清花に落ち度があるわけで。

性格が悪いのはモブばかりなので、不快感は一切ありません。良い意味で表紙詐欺だよ。

こういうとあれですが、実にドラマ化しやすいメンツだなと。意識してると邪推すらしてしまう。

事件

家庭内別居やDVに切り込む

テーマは家庭内の不和。
主人公の清花自身が苦しんでおり、シリーズ1作目として申し分ありません。

言うて、DVする人と話す展開は冒頭に少しあるだけです。
後は過去の資料としてDV家族の過去を調べるだけなので、直接的な話は皆無。

暗さを求める人は蟻の棲み家がオススメです。同じテーマでありながら雰囲気がガラッと変わる。

不快なのは最初だけで、後は人間の温かさに触れ合える

冒頭から重い内容だなぁと思っていたのですが、中盤からは一転して明るいムードが続きます。

はみだし者が集まる特捜、村で出会う人々、時間が増えた娘との触れ合い。
様々な刺激を得て、清花は本来の自分を取り戻していくわけですな。

人との絆を見たい人に本書はうってつけです。

事件的な盛り上がりは一切ない

あくまで神隠し(行方不明)であり、人が死んでいるわけではありません。
まあ、実際は死んでるかもですが、いずれにせよ犯人を探すと言う話にはならないのです。

もちろん動機やトリックなんてあるわけがない。
言ってしまうと、事件らしい事件はないのです。異色だよな、やっぱ。

タイトルを見て刑事小説を少しでも期待するとガッカリするのは間違いない。

クライマックス

特捜だからできる結末と言える。個人的にはほっとした。

人によっては非情さが足りないと思うかもしれない。ご都合過ぎると思うかもしれない。
そもそも解決したかどうかも怪しいですからね。

でも、これが特捜なんです。どこまで事件化するかどうかも彼らの匙加減なのです。

いったいどんな結末になるのか。ぜひ読んでみてください。

まとめ

ヒューマンドラマ系の推理小説が読みたい人にオススメ。
警察が主人公ですが、刑事ものとしては異色なので注意。

まあ、これは読んでみないと向き不向きが分からないと思う。

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