SHARE:

【粗筋】Aではない君と【感想】~償いとは何か~

作品情報

作者:薬丸岳
出版社:文春文庫

雑感

少年犯罪をテーマにした作品として最高傑作。

少年ではなく、その父親を主人公とすることで家族の葛藤をこれでもかと書いています。
それでいて被害者家族への風当たり描写は最低限なので、鬱屈とした気持ちにはなりません。

息子の将来をどう考えるか。彼に罪をどう認識させるか。最初から最後まで少年犯罪だけに向き合い続けていました。

そういうわけなのでドラマ性はありません。言ってしまうと終わった事件の後処理みたいなものです。ドキュメンタリー番組みたいかな。

粗筋

息子の翼が同級生の殺人容疑で逮捕された。しかも事件のことは何も話さない。
このままだと翼は逆送されてしまう。圭一は弁護士の神崎の助力を得ながら翼の心を解きほぐそうと動き出した。

翼の部屋、友人、当日の行動などを観察し、少しでも翼から事件の概要を聞き出そうとする圭一。
その中でいままで如何に自分が翼と向き合っていなかったかを痛感する。

果たして翼はなぜ同級生を殺害したのか。そして、彼は更生できるのか。
本当の家族となるため、圭一は翼と向き合い続ける。

登場人物

吉永圭一

建設会社の設計士。優秀で部下からの信頼も厚いが、考えすぎるあまり行動を躊躇しがち。
息子に対しても一歩引いた接し方をしている。

性格はとても良いし、頭も悪くない。作中の行動も納得できるものがあり、非常に安心できる人物でした。
だからこそ読んでいて辛い。必死に息子のために動こうとする圭一に同情を禁じえません。

仕事一筋で家庭をおろそかにしがちではありましたが、息子への愛は本物。もっと別の人生もあったのではと思わずにはいられませんでした。

事件

至高のホワイダニット小説

トリックなんてものはありません。事件の結末はゆるぎないものです。
しかし、動機だけは一向に分からない。誰が聞いても翼は何も話しません。

翼に何があったのか。本書の大部分は彼の動機を探す旅になります。

といっても圭一はただのサラリーマンなので、捜査はほとんどできません。
出来ることは辛抱強く翼と話し続けることだけ。進展はどうしても遅くなりますし、大どんでん返しもありません。推理小説とはまるで違いますね。

罪を犯した家族のその先は

事件の解決とは何なのか。
犯人を見つけたら終わりではありません。そこから少年を更生させることが全てです。

犯罪者になった息子を支える夫婦。ある意味で究極の家族愛を描いています。

やっぱり親だけは見捨てないんですよね。友人や恋人はあっさり見限るのが嫌に生々しい。
ハッピーエンドなどありえないのですが、それでも救いを求めてしまうのは圭一に感情移入したからでしょう。

歯車がほんの少しでもかみ合えば最悪にはならなかったのにと。創作と分かっていてもたらればを考えてしまいます。

マスコミや野次馬の関わりは最小限

こういうテーマだと、マスコミの大バッシングはつきもの。
更にそこから野次馬の誹謗中傷が重なり、加害者家族の苦境が描かれがち。

しかし、本作は少年犯罪に真摯に向き合っているため、そういった鬱要素は最低限に抑えています。

もちろん要所要所で辛い描写はあります。
圭一は左遷されますし、押し寄せるマスコミに厳しい言葉を投げかけられます。翼も同様。

ただ、本筋はあくまで少年犯罪との向き合い方で、後味は苦々しいものになりませんでした。
いやはや。少年犯罪を克明に描き切った作品は中々お目にかかれませんよ。

あなたへのおすすめ