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作品情報

作者:岩木 一麻
出版社:宝島社文庫

雑感

医療用語が頻出。説明も含めて難解で、常にネット検索することになった。
中盤以降は理解を諦めて読み進め、1日で読了。

かなりしっかりした医療小説であり、その弊害として難しさが際立ったと言える。

粗筋

生前給付金を受け取った患者が立て続けに完治する謎

リビングニーズ特約、余命6ヶ月以内と判断された際に保険金が支払われる仕組み。
基本的に対象者は医師の告知通りに天寿を全うするとされていました。

しかし、ここ最近、立て続けにリビングニーズ特約を受けた患者が完治する事態が発生していたのです。

保険会社勤務の森川はそれを訝しみ、該当患者の担当医であり、友人の夏目医師に相談します。
もちろん夏目医師の誤診でもなければ嘘でもありません。患者は確実にガンに罹患していたのです。

いったいなぜ。ただの偶然なのだろうか。それとも…?
こうして夏目医師が中心になり、この謎に挑むことになりました。

無名の病院に殺到する高所得者の人間たち

湾岸医療センター。
ガン治療に優れていると評判の病院でありながら医師界隈では知られていない病院。

厚生労働省勤務の柳澤は、知人の勧めで湾岸医療センターのガン治療を受けていました。
幸い早期発見され、医師からも心配いらないと太鼓判を押されます。

これで今後は安泰だ。湾岸医療センター様様だ。そう安心していた柳澤に暗雲が立ち込めます。
安心と言われていたはずなのにガンが転移していたのです。

話が違うと憤る柳澤に医師がそれでも問題ないと諭します。
その説明に一時は納得する柳澤でしたが、事態は彼の望む展開には進みませんでした。

果たして湾岸医療センターは本当に評判通りなのか。それとも何らかの虚偽があるのか。
柳澤の中にわずかな不信感が芽生え始めていました。

トリック・推理

面白い。が、難しい。参考書を小説にしたような感覚。

医療用語が頻出し、読むのは大変

  • リビングニーズ特約
  • 重粒子線治療
  • エライザ法
  • 腫瘍崩壊症候群

などなど、医療に関する用語がどんどん出てきます。
幸い作中で分かりやすく説明してくれていますが、情報量に圧倒されることは間違いありません。

小説慣れしている僕でも読むペースが目に見えて落ちたので、小説が苦手な人は更に大変だと思います。流し読みするとすぐに混乱する。

ただ、これを読み終わった後、間違いなくガンについて勉強しようと思えるでしょう。
学習意欲を上げるという面白い効果が本書にはありました。

理詰めで原因を探る医師たちが面白い

作者が専門家ということもあって、隙の無い理論の展開に脱帽します。
軽く流すところがない。そのすべてを登場人物が徹底的に実験し、結論を出します。

良くも悪くも主人公達に危うさがありません。ずらしがないと言えば良いのでしょうか。

とことん一般的なミステリー小説とは異なるなと。

クライマックス

結末は分かります。完全寛解の謎ももちろん分かります。
ですが、スッキリはしません。

本当に謎を解いただけで、それに関わった人間たちの日常は何一つ変わりません。

要するに推理小説特有のカタルシスが一切ない。奥歯に挟まった骨が一生取れない。

正直物足りなさがあったかなあ。終わりよければ全て良し派の人はムリだろうなぁ。

まとめ

ガンの入門書を小説にした感じ。
これからガンに興味を持って勉強する人も多いでしょう。そういう意味では間違いなく良書。

しかし、ミステリー小説の観点で見るとラストがいまいちすっきりしない。そんな感想。

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