スポンサーリンク

作品情報

作者:城山真一
出版社:双葉文庫

雑感

これぞ刑事小説と呼ぶべき完成度。

仕事では失態により左遷が確定。家では娘との関係悪化。
2方面からの縛り<ダブルバインド>に苦しむ刑事の物語です。

警察組織の対立や犯人の足取りを追う捜査も丁寧に書き切っていました。

粗筋

妻を亡くし、娘との確執に悩む大黒柱

刑事課長の比留は板挟みの状況になっていた。

その1つが家庭不和。
娘が出生の秘密に気づき、比留との関係が壊れてしまったのだ。

不登校になり退学寸前の娘。
俺にできることは何か。決まっている。娘の願いをかなえるのだ。

いや、しかし…。
比留は娘の「本当の父親」を調べ、娘に伝える決断を迫られていた。

犯人を取り逃がし左遷が決定的に

警察組織でも比留の立場は危うくなっていた。
アポ電強盗犯を二度も逃がした責任を取らされようとしていたのだ。

出世の道が断たれてしまった。せめて犯人を捕まえなければ。
比留は決死の思いで捕まえる最後のチャンスを手にすることになる。

しかし、その事件は大きな事件の序章に過ぎなかったのだ…。

登場人物

ただただ不運なだけの主人公

すごく可哀そう。

はみ出し者ではなく、しっかりと組織に尽くしてきた比留。
正義漢から上司と衝突しますが、部下からは信頼を勝ち取っていました。

普通に良い主人公なんですよね。
ただ、運が悪い。あらゆる歯車が狂ってからのスタートです。

主人公にかけられた負荷が多ければ多いほど…

帯に記載の池上冬樹・解説より

これにふさわしい負荷をかけられているのです。本当に可哀そう。

忠誠心の厚い部下との協力が熱い

良い部下を持ったなぁ。

刑事組織と対立すると、だいたいが孤軍奮闘なんですよね。
せいぜい交換条件での協力を取り付けるぐらい。

しかし、比留の周囲には頼もしい仲間がいます。

正恒、赤塚、生原、山羽。
比留が身動きできない時も彼らが手足となり捜査をしていました。

ここまでしっかりとしたチームプレイは警察小説として逆に珍しいですね。

事件

仮説を立て指針を立てる頭脳派捜査

比留の本領はその頭脳にあります。

これまでに得た状況証拠から事件の真相を推測。
その後、新たに見つけた証拠と矛盾があれば棄却。新たな真相を検討します。

当たりを付けてからの捜査にムダはありません。限られた時間とリソースを駆使した知将の本領発揮と言ったところでしょう。

最初に事件を推理してるので、思わせぶりな展開もありません。
読者は比留とともに事件を追うことができるのです。

家族シナリオが浮いてる感がある

本書はタイトルにある通り2つの「縛り」があります。

ダブルバインド
  1. 正義を貫くか。組織にひれ伏すか
  2. 家族のために犯人の望みを叶えるか

それぞれが重い内容であり、流石に1冊で消化しきれません。
その割を食っているテーマが家族。半端な薄さで無くても良かったのではと思いました。

そもそも事件との繋がりが都合良すぎるんですよね。
まあ、そうしないと事件と家庭問題が絡まないしなあ。うーん。

ていうか、最後まで解決してないからな。これからどうなるんだろうな。

警察組織の話としてはしっかりしてたんですけどね。
家族がテーマの刑事小説なら棘の街の方をオススメします。

クライマックス

熱い。比留班VS警察組織VS犯人の三つ巴がラストを盛り上げます。
手をこまねいていては警察組織に先を越され、良いように事件を捻じ曲げられてしまう。

そんなことはさせない。俺の手で犯人を捕まえるのだ。
これまでに受けた妨害をはねのけ、比留班はついに犯人を追い詰めます。

まさに手に汗を握る展開で読む手が止まりませんでした。

まとめ

刑事小説好きは読むべき傑作。
家族問題がちょっと蛇足気味なのが気になったぐらい。

スポンサーリンク