
作品情報
作者:さの隆
出版:マガジンポケット
巻数:全14巻
雑感
罪と罰に焦点を当てた意欲作であり、犯罪者に真摯に向き合った真っ当なサスペンス漫画です。
犯罪の内容自体はエグいものの直接的な描写は少なく、グロ描写を期待すると肩透かしを受けるレベル。露悪的な要素も控えめで、読む前のグロ&鬱系マンガのイメージは完全に崩されました。
基本的には後日談の話ですからね。最悪はすでに通り過ぎており、その一歩手前の状況が最後まで続きます。サスペンス作品を嗜む人なら耐えられるレベルだから安心して欲しい。
悪魔と呼ばれた少年の人生は何だったのか。含蓄に富んだ内容であり、完読後は他人の感想は読む前に自分なりの答えを出してみて下さい。これはそういう作品。
登場人物
悪魔と人間の二面性を持つ斎藤悠介

中学生時代に悪逆非道を繰り返し、学園を地獄にした悪魔。
ここに間違いはありません。殺人以外の悪逆非道はすべて経験済みで、証拠があれば即捕まります。
しかし、中学を卒業すると同時に悪魔の仮面と過去の記憶をまとめて失いました。
以降はいたって普通の好青年。友人と笑い合い、バイトに励み、彼女も作る。順風満帆な学園生活を送ります。
被害者からすると狂いそうな話ですね。どういうことやねんと。
ただ、これは結構リアルな話で、至って普通の人が唐突に凶悪犯罪に手を染めることは現実でも珍しい話ではありません。
程度の差はあれど、誰もが彼のような二面性を持っています。後の悔恨む含め、作中でもっとも人間らしいキャラクターと思ってしまいました。
悪魔に魅入られた者たち

悠介は徹底的に嫌悪されており、まともな人間関係は築けません。
新天地でもそれは変わりなし。培った信頼関係も過去の悪行がバレた瞬間に崩壊。全てが敵になります。
一方で彼を信奉する者もいました。その1人が手のひらに風穴を開けられた会澤です。
悠介の悪行に手を貸していたので仲間とも言えますが、相応の憎悪を抱いています。そら穴をあけられたらね。
ただ、それ以上に悠介に入れ込んでおり、どんな事態になっても彼から離れることはありません。
ある種のストックホルム症候群でしょうか。彼以外にも悠介を慕う者が一定数現れます。
中盤以降は悠介に庇護欲を抱く者も出る始末。神格化して模倣する者も出ます。とんだ人たらし。
加害者に味方などおらず、恨まれながら孤独に死ぬべきだ。そう考える人には受け入れられない展開かもしれません。
まあ、悠介にとってはいずれは裏切る人間(と彼は思っている)なので、かえって苦しんでいるんですけどね。
加害者家族の描写を全て引き受けた母親
犯罪者を主人公にするにあたって、決して外せない加害者家族の物語。
唯一の肉親である母親がその役を一手に担います。
と言っても刑事事件にはなっていないため、世間から糾弾されることはありません。
だからこそ悠介の犠牲者の憎悪はすさまじく、復讐の矛先を母親に向けるシーンが何度もあります。
悠介が悪魔だった頃は報復を恐れて大人しくしていましたが、記憶を失ってからは一転。
もっとも身近な人間として母親は度々襲われ、瀕死の重傷を負う羽目になります。
何が悲しいって母親は一般人なんですよね。まあ、育てた親も同罪ってことなんでしょう。現実でも珍しくない話ですが、どうにも僕はモヤモヤしてしまいます。
物語
己の罪を思い出す第一部

とある事情で記憶を失った悠介。しかし、それより前に犯罪行為から足を洗っていました。
いったい俺の身に何があったのか。会澤の強引な後押しで、これまでの軌跡を辿ります。
犯行に利用していた廃校舎、もっとも凄惨に弄んだ女生徒の実家。
様々な場所を訪れ、時には被害者からも話を聞いて全容解明に挑みます。
第一部はミステリー要素が色濃くなっており、少しずつ明かされる真実にワクワクしっぱなしでした。
悠介本人も言っていますが、「好青年の悠介」と「悪魔の悠介」がどうやっても結び付きませんからね。なんなら本当は何もしていなかったんじゃないかと考える程です。
己の罪に向き合う第二部

謝罪も自殺も許されず、ただ生き続けることを求められた悠介。
第二部では己の罪に向き合う悠介のその後が描かれます。
そして、ここからが本作の真骨頂。第一部はプロローグでしかありません。
例えると、るろうに剣心の人誅編を現代版にアレンジした感じ。
絶対に許されない罪に向き合う犯罪者の姿を最後まで見ることになります。
悠介の風貌は激変しており、悪魔戻りしたと錯覚するような暗い眼光に恐怖すら覚えます。
実際、暴力沙汰は目に見えて増えていますからね。いつ悪魔に戻ってもおかしくありません。この辺もるろうに剣心に似通っています。
悪魔は人から信頼されても良い存在なのか

第二部の裏テーマは「信頼」。今の悠介しか知らない藤森蒼志が彼と生活を共にし、何度も悠介を信頼できるか問われる場面に出くわします。
償い方を探す悠介でしたが、その過程で様々な人に出会い、そして、悉く人生を壊していきます。
それは偶然かそれとも悪魔の意思か。第二部では悠介の心理描写が少なくなっており、彼の真意が推し量れません。
客観的に見ると異常なのは間違いないですからね。何がどうなって他人の家に居候して、挙句に家庭内崩壊させることになるんでしょうか。
もちろん蒼志も影響を受けます。義父殺しの罪まで着せられるのですからたまったもんじゃありません。
さらに作中では、悠介の仕業と思わしき犯行も何度も判明し、そのたびに彼への信頼が揺るぎます。
そして、最後に悠介の過去を全て知った蒼志はどうするのか。第三者視点で描いた犯罪者のその後、本作の結末としてこれ以上のものはありませんでした。
まとめ
犯罪漫画として非常に作りこまれている。
ただ、納得できる人は少ないと思います。犯罪者は断罪されて当たり前だと思う人には受け入れられない展開が多い。
僕自身も犯罪者は厳罰を受けて然るべきと思っている側ではあります。それは本書を読み終わった後でも変わりません。
でも、それでもこれまでと違う何かを感じざるを得ない。「更生」という言葉を信じたい気持ちも確かにあるのです。
色々と考えさせられる漫画なので、興味のある人はぜひ読んでみてください。




