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作品情報

作者:伏尾美紀
出版社:講談社文庫
販売店:

雑感

文句の付け所の無い刑事小説。

  • 主人公の葛藤や成長
  • 関係者の心の機微
  • 事件の複雑さ
  • 物語の結末

それら全てを丁寧に書き上げており、矛盾点も見つからない。
何より面白い。読む手が止まりませんでした。

粗筋

博士号を持つ異色のノンキャリ警察の沢村。
とあるきっかけで未解決事件に巻き込まれることになります。

それは2013年に発生した少女誘拐事件。5年後に被害者死亡という最悪の結末を迎えました。
更にそれから1年半が経過するも進展はありません。それだけ難解な事件なのです。

警察へのバッシングはすさまじく、捜査情報までマスコミに漏れて収集がつかなくなります。
いったい真相は?捜査情報を流したのは?

自分の生き方にも答えを見いだせない沢村は休む間もなく闇深き事件に挑むことになるのでした。

登場人物

どの人物も存在感が強い。
主人公の沢村はもちろん、ほんの少ししか登場しない人間も読者にインパクトを与えます。

  • スナックのママ
  • 保険の営業レディ
  • 沢村の家族

事件と直接は関係ありませんが、各々の主義思想をしっかりと書いているためか心に残るんですよね。
沢村が宙ぶらりんな状態な分、対比がしっかりと出来ているというのもあるでしょう。

登場人物はかなり多い方ですが、アイツ必要だった?ってのは1人もいませんでした。

登場人物は多い作品は誰が誰だが分からなくなりがちなんですけどね。うまく書ききったよなぁと。

事件

翻弄される警察組織の表現が秀逸

遅々として進まない未解決事件に苦しむ警察を巧みに表現しています。

警察として誇りを持っている人間ほど苦しいものはいないでしょう。
マスコミもこぞって警察の不祥事として叩き出し、警察の立場はどんどん悪くなっていきました。

ある者は隠蔽しようとし、ある者は責任を押し付け合い、ある者は耐えられずに自殺をする。
ついには捜査情報を流出させる者まで現れ、未解決事件が警察に与える影響がどんどん大きくなっていきます。

ただ悪と断罪するだけではない。組織故に苦しむ警察の内情をこれでもかと表現しています。

複雑怪奇な未解決事件に読む手が止まらない

そんな混沌とした状況でエリートノンキャリの沢村に何が出来るのか。
あらゆる人物に聞き込みをし、少しずつ真実を明らかにしていきます。

沢村だからこその着眼点もあり、5年以上前の事件でありながら新情報が次々と出てくるのです。
しかし、これを沢村以外が無能だと切り捨てるにはあまりにも酷と言う者でしょう。

それだけ予想外の真実だったのです。沢村自身も意外な所から事件の手がかりを見つけ出します。

まあ、それなりに推理小説を読んでいる人からすると、超斬新!と言う真実でも無いかもしれません。
とはいえ、最初から分かる人もいないでしょう。謎の残し方がそれだけ巧み。

クライマックス

終盤は沢村と犯人の一騎打ちになります。
犯人は狡猾であり、中々しっぽを出しません。

しかし、覚悟を決めた沢村は今迄の捜査で得た証拠や証言を次々と繰り出します。
沢村の卓越した弁論で犯人を追い詰める開は圧巻の一言。

対話で犯人を追い詰める展開が好きな人にオススメの作品ですね。敵の罠をあっさりと見抜く鋭さが爽快でした。

動機を丁寧にあぶりだしていくので、ホワイダニット好きにもアリです。

まとめ

デビュー作とは思えない完成度。
刑事小説愛好家の僕も納得の一冊でした。

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