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作品情報

作者:斜線堂有紀
出版社:ハヤカワ文庫JA

全体の概要

いわゆる特殊設定ミステリ。
2人以上殺せない世界で起きる連続殺人の究明に探偵の青岸が挑みます。

天使の降臨以降、2人以上の殺害は地獄行き

突如として世界中で発生した天使の降臨。
直後、世界中で大勢の人が燃やされながら地中に引きずり込まれるようになりました。

しばらくして全人類が天使の定めたルールを理解します。

天使のルール
  1. 2人以上殺した者は天使によって地獄に引きずり込まれる
  2. 殺意は関係ない。事故であってもカウントされる
  3. 医療行為によるやむを得ない死は免除される

これにより殺人事件は急減しました。割に合わないからです。
これぞ神の思し召し。一部の人類は天使を崇拝するようになったのです。

人間の悪意はルールを超越する

殺人事件こそ減りましたが、その一方で凶悪犯罪の割合が増えてきます。
2人以上を殺すと地獄なら一気に殺せばお得ではないか。

あまりにも身勝手な思想が一部の狂人に産まれ始めます。
また、それを商機と見た武器商人が大量殺人を可能とする爆弾「フェンネル」を開発。

あちこちで自爆テロが起き、青岸の部下もその被害にあってしまうのです。

あまりにもむごい世界。現世が地獄に変わった瞬間でした。
しかし、天使の影響は自爆テロだけではありませんでした。

2人以上を殺せばダメということは1人までならセーフではないか。

ある種の免罪符を得た人々が1人だけの殺人を行い始めます。
捕まっても罪の意識を持たない狂った人間。

いったい天使とは何なのか。悪を本当にさばいているのか。
部下を失った青岸は天使を憎悪するようになったのです。

トリック

ありえない連続殺人の恐怖がワクワクを加速

2人以上を殺すと地獄行きという制限を加えた本格ミステリ。
今までにない作品として読みごたえがありました。

特殊設定は天使だけですからね。それ以外は現実に即して推理できます。
もちろん自爆テロなんてオチはありません。しっかり1人が誰かを殺しています。

単純に考えれば1人が1人を殺しただけではないか。
そう思う読者を裏切るかのように多くの人間が殺されていきます。

1対1では計算が合わない。誰かが地獄を覚悟してまで殺したに違いない。でも、なぜ。

どんどん物語に引き込まれること請け合いです。

天使を崇拝するか憎悪するか

天使を巡って物語は展開していきます。
その中でキーとなるのが天使への感情です。

  • 天国の存在を証明する証として、天使を崇拝する
  • 地上を地獄に変えた天使を憎悪する
  • 異形の化け物にただただ恐怖する

十人十色の反応が面白い。
そこを理解することで事件の概要を理解することにつながります。

状況証拠だけで青岸の推理が完結してしまう

最後の推理で真実が明らかになりますが、大部分が青岸の想像で話しています。
物的証拠がほとんどないんですよね。あってもトリックを確定せるだけで犯人に結び付くとも思えない。

幸いに黒幕があっさり自供したので良いですが、ごねたら捕まえられなかったんじゃないかな。

あくまで2人以上を殺すトリックに重きを置いており、犯人を突き止めることは結果でしかありません。

ハウダニットメインといったところでしょうか。
動機もあっさり判明しますからね。さもありなん。

クライマックス

特には盛り上がりません。しんみりと終わります。
トリックが判明した段階で本書は完結したといったところでしょうか。

後は青岸の心の闇を晴らしてめでたしめでたしとなります。

死亡者数は他作品と比べてもありえないぐらい多いんですけどね。
その辺の緊迫感はほとんどありません。

まとめ

特殊設定ミステリの入門書としてオススメで、非常に読みやすい。
ただ、犯人捜しはやや性急すぎて、答えありきで書いている感じはありました。

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