目次
作品情報
作者:秋吉理香子
出版社:幻冬舎文庫
雑感
ただただ不気味で苦しい。
4人の女性が絶対正義に当てられて人生が崩壊する話。3時間弱で読了可能なボリューム。
あまりにも気持ち悪くて、途中で読むのやめそうになりました。
それぐらい正義の範子が生々しい。間違いなく表現力はぴか一の作者です。
粗筋
範子の正義を恨んだ4人の女友達
どこまでも正義を貫く女性がいました。
間違っていることは塵1つすら許さない。誰もが尊敬する女性。
しかし、友人である今村和樹たち4人は彼女の歪さに気づいていました。
正義だけを重視して、そこに温情は一切ない。
誰であろうと法の下に罰を与えるまで、徹底的に追い詰める。
その正義は和樹たちにも襲い掛かり、耐えられなくなった4人は範子を殺害してしまいます。
死んだ範子から届いた招待状
安寧を手に入れた和樹たちに一通の招待状が届きました。
差出人は殺したはずの範子。一同は恐怖します。
もしかして死んでいなかったのか。この先、私たちはどうなるのか。
範子が私たちを見逃すはずがない。そう、彼女は正義の権化なのだから。
招待状をきっかけに4人に範子の想い出がフラッシュバックします。
いったい範子は何者なのか。世にも恐ろしい絶対正義の内容が明かされるのでした。
トリック・推理
高規範子の正義が淡々と紹介される
学生時代に友人だった4人の回想で、範子の「正義」が語られます。
言ってしまうと本書の内容はこれだけ。範子の正義の数々を紐解いて終了です。
どこまでも止まらない正義、別にこれ自体は珍しくはありません。
例えば、Fate/stay nightの衛宮士郎。行き過ぎた自己犠牲で周囲に危機感を抱かせるほどの男でした。
じゃあ、本書の何が一般的な正義マンと異なるか。それは高規範子の内面が一切分からないことです。
正義の為なら友人の人生を台無しにすることも厭わない。
いや、違う。彼女にとって友は「正義」だけ。それ以外は「法を守る人」と「法を守らない人」の2種類しかいない。
何を考えてここまでになったのか。なぜ、正義で人に罰を与えた時に彼女は「笑う」のか。
内面が分からない正義マンがここまで恐ろしいとは。それを気づかせてくれた作品でした。
不気味さを表現しただけで、それ以外の要素はない
推理もなければトリックもなし。ていうか、事件の内容は読者に公開済みですからね。
そんなわけで推理小説としての価値は一切ありません。
なんていうのかな。世にも奇妙な物語にありそうな作品ですね。
範子の不気味さに気づけたのは長年一緒にいた友人の和樹たちだけ。
他の人は彼女を尊敬し、見習いなさいと言うだけ。彼女を批判すると自分が孤立するのです。
読者ももちろん範子の異常さに気づくので、和樹たちと同じ不快感を味わうことになるでしょう。
正直これが本当に辛い。かなり人を選ぶ作風だと思いました。
クライマックス
最後の最後で更に不気味に終わらせるのは流石。もはやホラー。
正義の信奉者っていうぐらいだからサイコパスなのかなと思ってました。
しかし、実際は違った。彼女は別に正義で世直しをする気なんて全くなかった。
では、彼女にとって正義とはなんだったのか。
サイボーグとも評された範子ですが、実際は非常に人間的な女性だったのです。
彼女の内面を知る。それこそが本書の目的なのでしょう。
まとめ
かなり癖の強い作品。
世にも奇妙な物語が好きな人なら楽しめそう。僕は途中からかなりきつかった。