目次
作品情報
作者:彩坂美月
出版社:実業之日本社文庫
雑感
父親を失った少女が集落に引っ越し、大人に成長するまでの青春小説です。
ボーイミーツガールが好きな人にはオススメ。
また、集落で噂される「向日葵男」という怪奇現象の謎にも迫ります。
本格的ではありませんが、ちょっとしたミステリー小説としても読み応えあり。
粗筋
母の故郷で少女が成長する物語
父親を失い、拠り所を失った小6の高橋みのり。
傷を癒すため母と一緒に祖母の家に引っ越すことになりました。
そこで出会ったのが冷静沈着な怜とガキ大将の隼人。
正反対な2人に翻弄されながらも少女はこの集落で成長していくことになるのです。
出会いと別れ。集落での4年間はみのりにどんな結果をもたらすのでしょうか。
付きまとう不穏な影
平穏な集落で誰もが伸び伸びと暮らしている。
しかし、その平和に一滴の不安が落ちます。
「向日葵男」。集落に伝わる怪異で、子供を標的にする殺人鬼。
子供はその名前を口にすることすら恐怖を覚えているようでした。
その恐怖を体現かするかの如く起こりだす事件。
いったい目的はなんなのか。向日葵男は実在するのか。
みのりは集落の謎にも触れることになるのです。
トリック・推理
未熟な少女の思い込みが読者に誤った情報を伝える
いわゆる「信頼できない語り手」として主人公の高橋みのりが物語を複雑化させます。
未熟な少女の思慮の浅さが表現されており、読者も翻弄されていくことでしょう。
しかし、大人になるにつれて心身ともに成長し、今までの間違った考えにみのり自らが気づくことに。
「信頼できない語り手」から「信頼できる語り手」への成長物語が本作の面白さです。
都市伝説「向日葵男」の正体とは?
子どもの命を狙う化け物「向日葵男」が集落で噂されていました。
そして、存在を裏付けるかの如く発生する不穏な事件の数々。
どれも事件と呼ぶには些細なものばかりですが、目的が分からずただただ不気味。
その正体を暴くことがみのりの大人になるための通過儀礼のようになっています。
推理要素はオマケ
流石にただの少女なので、そもそも事件を調査する能力がありません。
得た情報も使いこなせず、気づいた時には後の祭りになることも珍しくない。
そんなわけでミステリー小説好きが読む作品とは言えません。
あくまで本題は「青春」であり、スパイスとして「ミステリ」が少量加えられていた程度です。
クライマックス
今までの出来事の意味にみのりが気づいたとき、物語はクライマックスを迎えます。
だからあの時…。そうだ、今までにサインは何度も出ていたんだ。
すべてを気づいたときはすでに事態は終わっていました。
それでも何かができるのでは。成長したみのりの決断に親心に近い何かを感じることでしょう。
甘酸っぱい青春小説として文句なしの結末でした。ちょっとウルっときちゃった。
まとめ
一気に読むのではなく、ゆっくりと読んで欲しい作品。
みのりの成長を楽しむのが本書のメインです。推理要素はそのオマケと思っておきましょう。