目次
作品情報
作者:杉井光
出版社:新潮文庫nex
粗筋
こりゃすげえわ。全く新しい小説の可能性を見た。
異母兄から依頼された父の隠された小説の捜索
ミステリ作家の宮内彰吾と女性ファンの不倫の末に産まれた藤坂燈真。
それが世間に許されるわけもなく、父に認知されないまま母に育てられてきました。
その母も不慮の事故で亡くなり、燈真は自分の存在意義を見失うようになります。
そんな折、宮内と本妻の長男から連絡が来ます。
親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いていたらしい。何かしらないか
裏表紙の粗筋より引用
そんなことを聞かれても燈真は父と会ったことすらありません。知るわけがないのです。
だったら探してくれ。どうせ暇なんだろう。金は払う。
長男の横柄な態度に苛立ちを覚えましたが、お金はあって困るものではない。
また、小説を探すことに何か意味を感じる。
自分の気持ちに困惑する中、初めて彼は父と向き合うことになるのです。
父の生前を知り、無関心から苛立ちや戸惑いへ変化する
父は生粋のプレイボーイであり、女性関係は母だけではありませんでした。
ホステス、同業者、芸能人。燈真は様々な女性に出会い、父の人となりや小説の行方を調べていきます。
聞けば聞くほど、ろくでもない人間だと理解し、誰もが口をそろえて父の生き方をマネするんじゃないと忠告してきます。
ただし、父の小説家としての才能は誰も否定せず、皆が遺作の発表を待望していました。
親としての父、小説家としての父。初めて知る父の姿に燈真は戸惑い続けます。
そんな父が最後に残した小説。そこには何があるのか。
いままでの贖罪か。それとも自伝か。もしくは全く別の何かか。
そして、物語は衝撃の展開を迎えるのです。
トリック
作中作を題材にした作品
物語中に探している小説こそが本作のタイトルになっています。
いわゆる作中作、小説の中に別の小説が登場するのです。
そういうこともあり、内容はほとんどが「世界でいちばん透きとおった物語」についてです。
いままで「警官が主人公の推理小説」を書いていた作者には似つかわしくないタイトル。
様々な人がその内容を知りたがります。どんな作品なのでしょうか。
紙の小説だからこそできる予想外のトリック
天才だと思った。なるほど、これは確かに紙の小説にしかできない。
よくもまあ書き上げたなと感動しました。
いままで「予想外の結末」という紹介文は何度も見ましたが、本作はそのどれとも違う「予想外」です。
タイトル回収も気持ちよく、読んでいて気持ちの良い物語でした。
クライマックス
トリックに書いてしまったので語ることはありません。
ただ、読後感はタイトル通りです。すっげえさわやか。
初めて向き合った父を知った燈真はこれからどう生きるのか。
両親はともにもう生きていません。しかし、ここからが彼の本当の人生なのかもしれません。
ぜひ本書を読んで今迄にない衝撃と感動を味わってほしい。
まとめ
電子書籍が普及している中、紙の可能性を追求した名作。
読んだ後に見返すと「まじやん!」と驚くこと請け合いです。