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作品情報

作者:月原渉
出版社:新潮文庫nex

雑感

使用人探偵シズカシリーズの第1作。

見立て殺人を題材にした推理小説として屈指の完成度であり、クライマックスも文句の付け所がありませんでした。

トリックや犯人の追及に力は入れておらず、動機がメインです。
ホワイダニット好きにオススメしたい作品ですね。

粗筋

縊れた男の絵を売る為、名残館に訪れる

父の遺品を整理していると、首をくくられている男の絵が見つかる。
どう処分するか悩んでいたところ、氷神公一なる人物から絵を購入したいと申し出があった。

いったい二束三文にもならない絵になんの魅力を感じたのだろう。
訝しみながらも秋月和美が代表として、ご老人の住む名残館を訪れることになった。

絵を渡したらすぐに帰ろう。しかし、秋月のささやかな願いは叶うことはなかった。

絵になぞらえた見立て殺人によって殺される人たち。秋月の命も危険にさらされる。
一同が疑心暗鬼になる中、一人のメイドが事件を防ぐべく立ち上がった。

ご主人様、見立て殺人でございます。

帯の文章より

果たしてメイドは信用に足るのか。秋月は無事に館を脱出できるのか。
クローズドサークル内で今、連続見立て殺人が幕を開ける。

登場人物

タイトル通りにシズカが主人公ですが、語り手は秋月和美という青年が担っています。

そのため、シズカの心理描写が皆無であり、身の上も最後まで分かりません。要するに感情移入できないのです。

語り手に感情移入する僕には少し辛かったかなぁ。秋月の存在意義が謎なんだよな。

まあ、ミステリアスな淑女が好きな人にはあうかもしれない。
非常に味があるキャラなのは間違いありません。若干の慇懃無礼さが気になりますが。

彼女を受け入れられるかが一番大事な要素だと思います。癖が強いんだわ。

事件

見立て殺人を追求した良書

ちょっとした要素ではなく、純度100%の見立て殺人が本書の肝です。

犯人の動機や正体が見立て殺人の中に隠されており、それを解き明かしていきます。
見立て殺人が好きな人にはたまらない作品と言えるでしょう。

犯人の凶行を食い止めることがメインだが…

シズカは見立て殺人をいち早く看破し、事件を防ごうとします。
そんな犯人との攻防は目次を見れば自ずと分かるでしょう。

結果、犯人の追跡は二の次になっており、終盤まで調査は全く進みません。

まあ、事件を起こさないに越したことはないですからね。探偵の正しい姿と言える。

そういうわけで、事件が起きるたびに現場を調査して情報を集める…な展開は期待できません。

また、肝心のシズカと犯人の攻防もいたちごっこで変化があまりありません。

このせいで中盤は中だるみを感じました。いまいち話が進まないんだよな。

ちょっとずつ真相に近づくなら気にならないんだけどね。いきなり真相に飛ぶからな。

クライマックス

そう着地させるのかと。
犯人の動機がしっかりとあり、ホワイダニット小説として読みごたえがありました。

現代では考えられない明治だからこその動機に涙を禁じえません。

ただ、いわゆる「衝撃的なラスト」はありません。
また、クローズドサークルの割に緊張感はなく、淡々と終わった感が否めない。

ていうか、結局シズカが何者なのかさっぱりわかりません。ヒントすらありません。

主人公がそれでどうなんだと思わなくもない。まあ、平気な人はそれで良いのかなぁ。

まとめ

さくっと読める見立て殺人小説。
犯人捜しを一向にしないので人によってはヤキモキするかもしれない。

終わってみると、全てが綺麗にまとまっておりすっきりしました。
ただし、シズカの正体は不明なので注意。事件の真相よりそっちの方が知りたかった。

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