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作品情報

作者:平石貴樹
出版社:光文社文庫

雑感

圧倒的な「登場人物の数」と「名家の歴史」に驚きを禁じ得ない。
岩倉家の人物全ての人間関係を徹底的に洗い出す骨太の刑事小説と言えるだろう。

動機も独特で、(人を選ぶかもしれないが)新鮮な気持ちになる。
ただ、なぜか主人公が事件を解かない。その一点において、本書を人にオススメする気にならない。

粗筋

名家に起きた悲劇

函館の名家である岩倉家の美人姉妹。その末っ子の咲良が行方不明になる事件が発生。
捜索の末、潮首岬で遺留品が発見されます。

しかし、そこには咲良の姿はなく、大量の血痕と血糊のついた鷹のブロンズ像が事件の凄惨さだけを示していたのです。

果たして鷹のブロンズ像が凶器なのか。
警察が聞き込みを行っていくと、岩倉家当主の松雄が「芭蕉の短冊額」を見せ、これは見立て殺人ではないかと発言します。

短冊の数は4つ。それは連続殺人事件を予兆させる不吉な数字として、周囲の人間を恐怖させました。

岩倉家の愛欲にまみれた人間関係の中に真実が隠されている

犯人の目的は3姉妹なのか。それとも岩倉家そのものなのか。
刑事の俊介と山形はあらゆる可能性を考慮し、様々な人間に聞き込みを行います。

岩倉家の愛人関係や人付き合い。恨みを持っていそうな人物。
新たに浮上した人物は足で訪ね続け、次第に岩倉家の隠された相関図と年表が姿を現します。

それでも真犯人が見えない。しかし、調べた情報のどこかに真実が隠されているはずだ。
函館に起きた一大事件を解決するため、2人の刑事は更なる調査に邁進するのでした。

トリック・推理

人情と熱意にあふれた2人の刑事の地道な聞き込みが心地よい

俊介・山形のバディで物語は進んでいきますが、この2人の聞き込みが実に楽しい。

甘さが残るがゆえに人に寄り添える山形、剛柔を兼ね備えた山形。
北海道弁がまた良い味をしていて、地元住民との触れ合いを楽しめました。

一見すると地味な聞き込みなんですけどね。
1日の終わりに俊介が家族と触れ合いつつ、その日を振り返るのも良いものでした。

登場人物と岩倉家の年表の完全把握はムリ

雑感にも書いた通り、緻密な設定がされています。
一方で、それが作者の独りよがりになっていると感じました。要するに読者のことを考えていない。

事件そのものの時系列さえ複雑なのに、過去の愛人関係まで遡るので訳が分からなくなります。

これ完全に理解するのムリじゃないかな。年代までバラバラだし。
岩倉家1人1人の愛人関係を洗い出すからもうわけわかめです。

クライマックス

謎解き役が脇役という理不尽

何が嫌って事件を解決したのが主人公ではなく、ぽっと出の学生だったこと。

第3章までは、俊介が暗中模索の中でも地道な聞き取りをしていたんですよ。
それが実に刑事小説らしくて好感が持てました。

しかし、常にジャン・ピエールの言動に気を使っており、解決してくれることを願っていたのが気に食わない。
もちろん藁をも掴む想いなんでしょうが、物語のメイン人物が「ついに閃いたか」と期待するのは何とも情けない。

言ってしまうと、本書は名探偵コナンの目暮警部視点の物語と言えるかもしれません。

そう考えると納得できる・・・かもしれない。でも、主人公に解いてほしいよなぁ。

3部作っぽいので、全部を読むとジャン・ピエールの重要性が分かるのかもしれませんが。、少なくとも本書だけでは残念な気持ちにさせられました。

犯人の独特な動機に興味をそそられた

名家の殺人事件はそう珍しくありませんが、動機が実にユニークだった。

共感できるかできないではなく、理解できるかどうか。それぐらいぶっとんでる。

単純に狂ってると断ずるのは間違いかもしれない。犯人は事件を起こすしか道はなかったと言えるのかもしれない。
それでも、聞いた人は「ここまでするか?」と思ってしまう。いくらなんでも被害者が憐れすぎると。

結局、当事者しか理解できないのでしょう。それでも個人的には個性的な動機に強い興味を持ちました。
犯人と動機が分かった後で、読み返すと色々ともう所はありましたね。どこまで本音だったのだろうか。

まとめ

やっぱ事件は主人公が解くべきだよなあ。なんかモヤモヤすんだよなぁ。
内容自体は面白いですが、人物関係が複雑すぎるので、その辺でも人に薦めにくいです。

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