作品情報
作者:斉藤詠一
出版社:講談社文庫
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雑感
激動の昭和に振り回された民間人の苦悩が語られます。
東京オリンピック、血塗られた土曜日など昭和史を学べる良書。
一方でミステリー要素は薄味。
戦争直後の好景に沸く日本に隠れた「腐敗」を書いた社会派小説の方が近いでしょう。
昭和のミステリーを求める方はインビジブルがオススメ。
粗筋
関東軍の最上によって満州国から日本に帰国できた3人の戦災孤児。
やがて彼らは大人になり、昭和経済を動かす歯車の1つになりました。
果たして助けたことは正しかったのか。今は何をしているのか。
その答えはやがて最上の知ることになるのです。
- 失踪した2人の戦災孤児
- 不可解な仕事を指示する元関東軍の同僚
吹雪の舞う中、運命の列車で最上は何を見るのでしょうか。
登場人物
本書は3人の視点で進んでいきます。
- 自衛隊の最上
- 戦災孤児の耕平
- 鉄道公安の牧
全員間違いなく好漢ですが、正直心に残りませんでした。
ぶれることなく目的に邁進しているため、彼ら自身のドラマがない。
やはり本書のテーマはあくまで「昭和の混乱」であり、登場人物はメインではないのでしょう。
事件
昭和史を存分に学べる
事件やイベントはもちろん昭和の生活を濃密に描いており、昭和史が好きな人にはたまらない。
特に国鉄周りが詳しく、箱師や平場師と戦う鉄道公安の知識がどんどん入ってきます。
目的の列車に乗るための試行錯誤は実に緻密。
乗り継ぎについてあまりにも詳細に分析しており、頭の整理にかなりの時間を要しました。
真実の究明を楽しむ作品ではない
クライマックスまで何が起きているのか本当に分からない。
事件っぽい何かはあるのですが、それが何に結び付くのかが判然としないんですよね。
最上や耕平は巻き込まれただけで状況を把握できていません。
牧は多少は調べてますが、それも真実とは程遠い。
謎解きを楽しむ要素は無いと思った方が良いです。
クライマックス
ノンストップ鉄道サスペンスにふさわしい展開。
刻一刻と迫る時間、吹雪に耐えながら最上達は真実に向き合います。
満州国で助けられた戦災孤児、助けた元関東軍。
してきたことは正しかったのか。その1つの答えがクライマックスにあるのでしょう。
なお、エピローグは中々に辛いものがありました。
これも社会派小説が故の展開なのでしょう。登場人物も昭和の激動に翻弄された被害者に過ぎないのです。
まとめ
昭和時代を描き切った鉄道サスペンス。
登場人物や事件は昭和の闇を暴く要因でしかなく、メインではありません。
昭和史に興味のない人には非推奨。好きな人はぜひ読んでほしい。