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作品情報

作者:知念実希人
出版社:新潮文庫

雑感

読みやすい医療ミステリーとして素晴らしい作品。
人情を重視しており、しんみりとした気持ちになれるでしょう。

その弊害として推理部分は薄味気味。
なぞなぞクイズみたいになっており、犯行動機にも伏線がなかったのが残念でした。まあ、納得はできたけど。

粗筋

術中に不可解な死を遂げた父の謎

腹腔鏡下胆のう摘出術。キズが小さく、身体に影響を与えないシンプルな手術。

そのはずでしたが、父の冴木真也は術中に命を失うことになりました。

オペをした海老沢が出血させたのだろう。それ以外に父が死んだ説明がつかない。
裕也は無理に自分を納得させることにします。

ところが、この医療事故が何者かにリークされ、メディアで報道される事態になりました。

さらになぜか警察が介入してきて、裕也は混乱します。
果たしてこれは本当に事故なのか。父の死について真実を知りたい。

裕也は単独で調査を始める決意を固めました。

何者かの妨害が裕也に襲い掛かる

父の死の真相を知りたい。
ただ、それだけで調査を始めた裕也でしたが、何者かの妨害を受けるようになります。

雇われのチンピラに襲い掛かられ、機械音声の警告電話が掛けられる。
いったいどういうことなんだ。俺は父の死を調べているだけじゃなかったのか。

もしかしたら何か大きな陰謀が隠されているのかもしれない。
謎が謎を呼び裕也は戸惑いますが、それでも真実に向けて歩みを止めることはできませんでした。

登場人物

冴木裕也がカッコよくて惚れる。

文武両道で何事にも動じない精神の持ち主。
ま家族を大事にしており、絶縁中の妹を常に気にかけている泣けるお兄ちゃん。

彼のおかげで色々なモヤモヤがすっきり解決するんですよね。実に爽快でした。
中々いないんじゃないんかな。推理小説でここまでの好漢な主人公は。

事件

細い糸を辿る思考実験

医療事故や突然死として処理された医師たち。
裕也はその謎に挑むのですが、ヒントがあまりにも少ない状況に苦心します。

ヒントAから様々なパターンを考え、ヒントBに気づき、そこからヒントCを見つける。
そんな感じで、最初に与えられたヒントを頭の中で推理し続け、やがては真実に到達します。

刑事小説だといくつかの証拠からとなるので、かなり独特な推理小説です。
思考実験に近いかもしれない。物的証拠もほとんどないからね。

医師の信念に基づく真実に何を想うか

雑感でも言いましたが、動機は唐突感がありました。
伏線を貼ろうにも答えをいきなり書くしかないので、致し方ない面もあったのでしょう。

とはいえ、動機は医師としての在り方を問われるもので、非常に興味深かったのも事実。

実際、自分が犯人や被害者の側に取った時はどうしたのか。色々と考えさせられました。

クライマックス

感動した。

色々と辛い結末なのは間違いない。正直バッドエンドに近いと思う。
でも、裕也のおかげで暗さが全くない。

事件を経て人として大きく成長した彼を見て、亡き父や末期ガンの母も安心したことでしょう。

妹問題も先行きに若干の不安はありますが、これ以上にない解決を見せてます。

そんなわけで、非常に読後感の良い小説だと感じました。

まとめ

主役の良さが光る名作。
ヒューマンドラマに重きを置いているため、推理小説成分はやや薄めです。

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