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作品情報

作者:井上夢人
出版社:講談社文庫
販売店:

雑感

奇書。

ここまで先の展開が読めない作品も珍しい。トリック自体は何となく分かりますが。

推理小説としては期待しないように。そういう次元の内容ではありません。
事件の詳細がほとんど明かされませんからね。人が死んだ事実だけです。

メインは登場人物の行動の意味。そこに謎が集約されていました。

万人にオススメできませんが、謎が永遠に積み重なる衝撃は本作でしか味わえないでしょう。

粗筋

これからあなたに54個の文書ファイルを読んでもらう。
書き手は1人ではない。(なお、一部の人物については私が代筆している)

  • 主婦の向井洵子
  • ライターの奥村恭介
  • チンピラの藤本幹也
  • フリーターの若尾茉莉子

各々には自身の体験を書いてもらった。
最初に洵子が巻きこまれた不可思議な事件から始まり、それを起点に他の人物も行動を始める。

これを読んでどうすれば良いのか。そう思うことだろう。
何かを強制する気はない。ただ、彼らの意思を少しでも汲んでほしい。そう願ってやまない。

登場人物

一見してまともに見えるけど、明らかに何かがおかしい。
そんな登場人物の日記を追う中で、読者の心はかき乱されていくことでしょう。

特に洵子が恐ろしい。普通の主婦のはずですが、周囲の人間と彼女の認識が常に乖離しています。
はたして彼女が間違っているのか。世界が間違っているのか。

彼女以外の人物は比較的まともに見えますが、果たしてどうなのでしょうか。
そもそも本当に正しい文章を書いているのかも怪しい。

いわゆる「信頼できない語り手」が一堂に会する作品は本書なのです。

事件

事件と関係ない行動を重ねる登場人物

確かに人は死んでるんですよ。しかも猟奇的な方法で。
ですが、登場人物でまともに事件に向き合うのは恭介と幹也くらいでしょうか。

とはいえ、恭介も事件はついでで洵子の奇行にご執心な様子。

証拠探しはもちろん警察や他の人間との協力なぞ皆無。最後まで事件に向き合っていません。

事件は意外な形で解決しますが、彼らはとことん他人事という異常な展開でした。

何が起こっているのか興味が尽きない

ぶっちゃけ事件そのものはオマケと思ってください。推理小説を期待してはいけない。
一方で謎の大きさはトップクラス。とんでもない規模です。

いったい何が起こっているのか。物語の結末は何なのか。気になって仕方ありませんでした。

無関係の登場人物を結ぶ1人の人間「本多初美」。彼女が謎の鍵を握っているように思えますが…。
なんとなくそうだろうなとは思える。でも、着地点が想像もつかない。

そんな奇書に読者は心を奪われることでしょう。

クライマックス

謎を解いてからが本番と言っても過言ではない。

登場人物の関係の総決算。これからの事を話し合う場が設けられます。
果たして一連の話はなんだったのか。どこに着地するのか。

有り得ない話にしかみえないけど、ファンタジーと断言することもできない。
そんな井上ワールドを最後まで楽しめることでしょう。

まとめ

常識を全て投げ捨てて読んでほしい作品。
あまりにもぶっとんでいるので、人を選ぶのは間違いない。

でも、読む手が止まらい。読後感も悪くない。そんな不思議な作品。

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