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作品情報

作者:宮部みゆき
出版社:光文社文庫

雑感

短編小説の集合体のような作品。
容疑者に関わる人々の生活が「財布の語り手」を通して説明されます。

各財布の物語だけでも面白いですが、それぞれが結んだ1つの結末もまた爽快。
文章が非常に読みやすく、6時間程度で読了可能のボリュームも嬉しい。

語り手こそ凝っているものの小説初心者にオススメできる作品だと感じました。

タイトル考察

刑事の財布から始まり、強請屋、少年、探偵、目撃者、死者、旧友、証人、部下と語り手の財布が移り変わります。
そして、最後は犯人の財布が殺人事件の真相と結末を語る構成。

このような財布たちの連なりを「長い長い」に表現しているのでしょう。

粗筋

保険金目当ての殺人か、それとも

惨殺死体が発見され、警察は8千万円もの生命保険の受取手である妻の法子に不信を持つ。
調べていくうちに疑わしい証言が集まるが、同時に完璧なアリバイも明らかに。

彼女は犯人ではないのか。事件が暗礁に乗り上げる中、更なる悲劇が幕を開ける。

財布は全てを知っている

刑事の財布は見ていた。主が命を削りながら事件を追いかける姿を。
探偵の財布は見ていた。亡き妻に似た女性を救おうと立ち上がった探偵を。
死者の財布は見ていた。持ち主が死んだ瞬間の地獄を。

犯人の財布は見ていた。止められない悪意の行く末を。

物言えぬ財布は観測者として事件のすべてを見ていた。
それを我々読者に伝えようとしてくれる。果たして、財布の見た事件の真相とは。

トリック・推理

財布を語り手にする奇抜な設定

事件自体はそこまで奇抜ではありませんが、財布を語り手とする作品は本書以外で見たことがありません

財布は主人のことを一番に想い、憂い、励まそうとします。
しかし、所詮は物言わぬ道具。主人の行動を変えることは決してできません。

財布同志の意思疎通はできるので、作中で偶然に出会うことがあれば慰めあうことはできます。でも、それだけです。

何もできずに起きた事だけを記憶する語り手。これほど空しい存在もいないでしょう。

人物描写が丁寧で、人間模様の変化を楽しめる

登場人物がみんな良い性格をしているんですよ。
文庫本の表紙になっている少年しかり。刑事しかり。

また、本筋とは別に登場人物の人生も描かれます。

  • 恋人に騙される
  • 家族との生活を思案する
  • 今生を悲観する

なんていうのでしょう。登場人物1人1人がしっかりと生きている。そう感じる作り込みです。

創作のはずなのに、彼らは本当にどこかで生きていたのではないか。そう思わされる。
それだけ生々しいんですよね。

果たして彼らは犯人なのか。違うのか

色物作品かと思いきや推理小説としてもしっかりしています。
冒頭から容疑者が表舞台に出ているのですが、彼らを逮捕する決め手がありません。

マスコミはすでに犯人同然として報道していますが、当人たちは何も気にしていない。
それどこから売名チャンスとばかりに煽ってくる始末。

絶対に捕まらない自信があるのか。それとも犯人ではないのか。
少しずつ出てくる証拠や証言。物語の真相はいかに。

そんなこんなで普通に刑事小説としても完成度が高いです。

クライマックス

ああ、そういう…。
探偵が絡むとこうなるよなという結末。絡め手が犯人を追い詰める決め手となりました。

正直、犯人の動機はそんなにインパクトありません。ぶっちゃけしょうもない。
でも、だからこそ人間味があるとも言えます。こういうやつは現代に山ほどいるだろうな。

まあ、解決時の爽快感、カタルシスは一切ありません。淡々と終わった感じ。

クライマックスまでを楽しむ作品と思った方が良いかもしれない。

まとめ

奇抜な設定に作りこまれた登場人物たち。
宮部節がきいている名作と言えるでしょう。

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