目次
作品情報
作者:月原渉
出版社:新潮文庫nex
粗筋
かつて香港に実在したスラム街を舞台にした小説。
事件そのものはフィクションですが、当時の環境はリアルを描いているのが特徴です。
自分のルーツを知るべく香港の九龍城へ
母が殺された。
謎の女性と母屋で密会していた母が襲われ、母屋ごと放火される。
犯人は逃走し、ただ1人取り残されたのが主人公の新垣風でした。
私に何かがあったら香港に行って遺骨を埋葬してほしい。そして、風のルーツを知ってほしい
母の遺言
風は母の遺言に従い、香港の祖母に連絡を取り、日本を発ちました。
そして、そこで巨悪に立ち向かうことになるのです。
優秀な妹仔だけが入れる「城」で行われた殺人の謎を解け
九龍城で行われている闇。
妹仔と呼ばれる女性の身売りの実態を知った風。更に香港で出会った友人のホンファが妹仔として「城」に行ったことが判明します。
貧しい家庭の子どもを引き取って、使用人として家に迎え入れること。養女と奴隷のどちらに捉えるかは諸説あり
自分を犠牲に旅立ったホンファを見捨てるわけにはいかない。
同じく香港で出会った友人のシャクティとともに「城」に赴くことになりました。
しかし、そこで予想外の出来事が起こります。
「城」の主であるロンが何者かに殺害され、風は容疑者として拘束されたのです。
このまま容疑者として捕まれば、惨い拷問をされた後に殺される。
それでは自分のルーツさえ知れず、友達も救えない。
風は自らの無罪を証明すべく、調査を開始することになるのでした。
トリック
可もなく不可もなくか。
九龍城の悲惨さが克明に描かれており、歴史資料として面白い。
どの国の法も届かないスラムとして1990年代前半まで実在していた地域。
独自のルールで秩序は守られていたものの環境は劣悪だったとのこと。
教会や組織などのコミュニティが発達していて、その様子も本書で詳しく語られています。
もちろんどこまで史実かは分かりませんが、歴史資料として間違いなく面白い。オススメ。
奇をてらう内容ではなく、淡々と解決する
あくまでメインは九龍城の暗部であって、殺人事件もそれを際立たせる1つの要素に過ぎません。
トリックに意外性はなく、結末もあっさり。
トリック重視なら主役が探偵の作品がいいっすな、やっぱ。
「屍人荘の殺人」や「紅蓮館の殺人」あたりがオススメ。
主人公が蚊帳の外なので、解決した爽快感はそんなにない
主人公は一般人であり、卓越した推理力があるわけでもありあmせん。
ある程度の調査をした後は本職に役目を譲ることになり、推理編では影の薄さが否めない。
一般的な推理小説とは違う味を感じました。やっぱ九龍城の闇だよ。
クライマックス
九龍城の物語として中々に読み応えのある良書。
ただ、推理ものとしては微妙。
主人公は謎を解かないし、トリックも犯人もそこまで意外性はありません。