目次
作品情報
作者:月原渉
出版社:新潮文庫nex
こんな人にオススメ
- 連続殺人で追い詰められる緊張感を味わいたい
- 「トリック」より「動機」の究明を重視する
- 記憶を失った女性と我々読者がともに真実に近づく共感
- 人間模様に興味はない
トリックの推理はほとんどないので、そこは注意してください。
人間同士のいざこざもありません。なので、死んだ人に感じることは何もないでしょう。
事件
宇江神家で起こる奇怪な連続殺人の物語。
死体はむごたらしく首が切断されており、その異常性が際立っています。
更にその首が中庭で浮遊していたとの目撃談もあり、にわかにホロー風味も漂わせていると。z
事件のカギを握るのは全ての記憶を失った「宇江神華煉」。
彼女が記憶を戻した時、謎も解けるのでしょう。
謎解き&トリック
タイトルに反して全体的にかなり特殊なミステリー。
単純な猟奇殺人とはまいりません。
犯人を捜す作品ではない
連続殺人でありならがそもそもの登場人物が少ない本作。
- 宇江神玲ヰ華
- 宇江神和意
- 宇江神華煉
- 栗花落静
- 伊勢五郎
- 九条
- 守原亜衣
厳密に言えばまだいるのですが、主要人物は以上です。
更に華煉と静は常に行動しているので犯行は不可能。
結果、6人の中に犯人がいることになります。そこで始まる連続殺人。
かなりスピーディーに死んでいくので途中から推理無しで犯人が分かります。
探偵役の静の言葉を解読する物語
とにかく静の意味深すぎて言動が分かりにくい。
- わたくしはそのような役割なのです
- 他の誰かではないとしたら?
など曖昧なセリフで周囲を動揺させます。
展開的にどうあがいても犯人でないのが余計にややこしい。
他の登場人物も意味深なセリフを吐きますが、読み終えると意味は理解できます。
このメイドだけはまじでややこしい。まあ、それが本書の魅力と言えるかもしれません。
入れ替わり殺人なのかどうなのか
本書で動機やトリックの議論はほとんどされます。
ただ、「入れ替わり」という点については徹底的に調べていきます。
首無しだからこその静の推理なのでしょうが、とにかくしつこいぐらいに調べる。
なぜここまで執拗に追及するのか。それを推理するのは我々読者なのでしょう。
さっきも言ったように探偵役の静の思考を推理する。本書はそんな作品です。
調査とは言ってますが、すべてを承知している節がありますからね。ミステリアスなメイドだぜ。
クライマックス
今迄の推理小説の常識を疑え
そもそもの殺人ペースが速かったこともあり、ラストの勢いは中々にすさまじい。
何が凄いってRTAの如く人が死んでいきます。犯人は逃げ切る気がないようです。
真相の発覚は中々に衝撃。推理小説の大前提を破った意欲作だと思いました。
だからこそ人によっては拒否反応を示すかもしれません。
読み返せば推理できそうではありますが、大前提を破る発想にまずならない気はする。
結局、静の正体はなんなのか
シリーズ作品だからか本書だけで静の正体はわかりません。
なぜか「華煉」は気づいたみたいですが、何度読み返しても確証を持てないんですよね。
前作を読めば分かるのかな。これは保留です。
まとめ
切り口が面白い推理小説。ただ、本格ミステリーかどうかは疑問が残る。証拠を探す物語でもありません。
真実に早々に気づいた静が周囲を振り回しているだけに見えるんですよね。ていうか、なんで誰もこの人を止めなかったんだろう。