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作品情報

作者:坂上泉
出版社:文春文庫

雑感

昭和版踊る大捜査線。

新人警察の新城と帝大卒エリートの守屋が衝突しながらも互いに認め合い事件を解決します。
戦後の時代考証がしっかりしており、刑事作品としても昭和史としても楽しめる傑作。

大阪が舞台ということで方言の読解が厄介ですが、人情味が色濃く出ているとも言えます。
かなり濃い内容なので、1週間かけてじっくり読むことをオススメします。

タイトル考察

invisible(表に出てこない)の通り、殺人事件を通じて政界をも巻き込む巨悪を暴き出す。
よく言えばわかりやすい、悪く言えばひねりの無いタイトルと言えます。

粗筋

凸凹コンビが殺人事件の調査に挑む

バラック地帯で刺殺体が、別の地域では轢死体が発見され、連続殺人事件の疑いで捜査が開始された。

更に本件は政治事犯の可能性が高かったため、エリート警官の守屋が捜査に加わることに。
バディとして新人の新城が選ばれ、2人で巨大な事件を追いはじめる。

しかし、この守屋が杓子定規の男で、聞き込み中に何度も問題を起こしてしまう。
新城がその場を執り成し、上司に管理責任について謝罪をする日々。

いったいなぜエリートのお守りなぞせねばならんのだ。こんなのが警察の仕事なのか。
事件と警察組織の板挟みにあいながら新城は己の生き方を自問し続けることになる。

事件の裏に隠された戦後の闇

調査の中で、2人は戦争によって全てを失った人、変わってしまった人、成り上がった人たちに聞き込みを行う。

そして、今回の事件は戦争時代の何かが関連していることが分かった。
被害者の共通点とは?犯人の動機は?日本軍が残した爪痕とは?

激動の昭和時代の中で2人の若者が暴く真実とは!?

トリック・推理

昭和中期の警察組織を克明に描く

時代は昭和25年頃。旧警察法の改正が議論されている時代です。
当時の警察組織はざっくり2つに分かれていました。

昭和中期の警察組織
  • 国家地方警察:現代の警察。自治体警察のない地域を担当
  • 自治体警察:小規模な町村に設置された組織(本書での大阪市警視庁もその1つ)

いわゆるエリートが国家地方警察所属であり、両者はライバルの関係にありました。
本作の主人公である新城は自治体警察、守屋は国家地方警察として登場します。

本書はそんな警察組織の動きを書き切っており、戦後の社会問題を知る上で非常に完成度が高い。

ラジオ番組なども登場し、当時の生活を想像するのも楽しかったですね。
昭和史の読み物としてオススメできる作品だと感じました。

対照的な2人の刑事が真実を追求する姿に熱くなる

マジで踊る大捜査線の青島と室井に似ています。
お互いに譲れない信念を持っているからこそ衝突をする。しかし、理解しあえれば、これ以上ないバディになりえる。

中盤までの2人の空回り具合はなんだったのか。終盤の息のあったコンビプレイは他の追随を許さないでしょう。
上司をも唸らす2人の活躍。まさに本書の主人公にふさわしい。

クライマックス

2人の若者の成長した姿を見れるだけで満足。
特に新城が最初と最後でまるで別人にまで成長しているのが、我が事のようにうれしくなる。

事件そのものは後味の悪いものになりましたが、それを補って余りある読後感の良さがありました。

まとめ

昭和史好きにオススメの作品。
聞きなれない用語が頻出するので、調べながら読みましょう。まあ、結構な時間はかかります。

さくっと読みたい人には不向きです。内容が深いんだわ。

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