作品情報
作者:飾守きょうや
出版社:角川文庫
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雑感
文庫2冊でお届けする極上のエンターテインメント。
悪漢との手に汗を握る攻防に読む手は止まらない。太田先生の傑作なのは間違いない。
ただ、ミステリー要素は上巻で回収され、下巻では推理する場面がありません。
そのため、ミステリーを期待すると若干の不満は残りました。
踊る大捜査線みたいな雰囲気と思えば良いでしょうか。
粗筋
駅前広場で起こった通り魔事件。
4人もの人間が刺殺され、からくも生き延びた修司は行きつく暇もなく追手に命を狙われる。
俺たちはなぜ殺されなければならなかったのか。
謎の人物に言われた「10日生き延びてくれ」という言葉も耳から離れない。
事件をきっかけに出会った相馬や鑓水の協力を得て、修司は事件に潜む大きな陰謀に挑む。
登場人物
傷害事件を起こした過去を持つ青年。
喧嘩っ早いが正義感が強く、自分以外の誰かが傷つくことを恐れる。
組織から爪弾きにされた刑事。
堅物で曲がったことを許さないが、緊急時は周囲がビビるほどの強硬手段を取る。
飄々とした性格のフリーライター。
メンバーの頭脳担当であり、今回の事件で敵を出し抜く作戦を立案した。
どいつもこいつも気持ちよいやつらばかり。
読んでいて彼らの人生をもっと見たいと思わせてくれました。
敵も悪にふさわしい信念を持ち、ある種の尊敬を抱きます。
モブもモブで、一部を除いて不快な人物は1人もいませんでした。
ドロドロとした人間模様はほんの少ししかありません。
事件
通り魔事件に潜む壮大な陰謀とは
ただの無差別事件をよくここまでの事件に結び付けたなと感動した。
予想はもちろんできませんし、納得のできる展開でもありました。
ページ数が多いこともあり、細部までストーリーを作り上げています。
その分、登場人物がとんでもなく多いです。
主要人物は目次を見ればよいですが、モブはどうにもならない。
内容自体は難しくないものの、確認のため何度も読み返すことになるでしょう。
高度な読み合い合戦
味方は優秀な奴らばかり。しかし、敵も一筋縄ではいきません。
互いに相手の思惑を看破し、その裏を取って行動します。
頻繁に攻防が入れ替わるので、終盤はどっちの思惑通りなのか想像がつきませんでした。
普通はなんだかんだで主人公チームがリードすると思うのですが、本作ではそう上手くいきません。
それだけ敵が優秀。修司ら3人が束になって、やっと渡り合える化け物なのです。
推理パートは前半で終わり
出し渋りしなかったという意味ではよかったかもしれない。
数々の謎が上巻でほぼ消化されます。犯人や動機、手段もすべて。
ただ、相手が狡猾で証拠を一切残していない。
そこで修司らは証拠を作るための大博打をすることになるのです。
と言った感じで、下巻はアクション作品と思った方が良い内容でした。
もちろん面白いんですけどね。
謎解決のすっきりを味わったので、若干の物足りなさはあったかな。
クライマックス
まさに怒涛。
幾多の攻防でボロボロになった修司達。一方で敵はまだ健在。しかも単体の知略では叶わない。
そんな絶望的な状況でも周到に準備を進めた末の結末が待っています。
まあ、それでも何度か諦めかけますけどね。敵が強すぎるって。
最後まで敵の格を落とさないことで、最高の展開を楽しめました。震える。
果たして大勝利に終わったのか。それとも…。
太田節全開の最後をお楽しみください。
まとめ
事件の壮大さと、それに関わる人物描写がが秀逸。
敵との戦いも迫力があり、最後まで読む手は止まりません。
一方でミステリー小説としてはやや不満が残りました。