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作品情報

作者:深木章子
出版社:角川文庫

雑感

手紙を読み進める章が多く、読むのに苦労した。
その章は登場人物の動きが一切ないからであり、冗長な感じがぬぐえない。

ただし、結末は素晴らしい。悲しくも美しいと感じた。

粗筋

資産家で起きた毒殺事件

昭和41年、資産家の楡家で当主の長女と孫が毒殺される事件が発生しました。

警察の調査の結果、楡重治以外に犯行が難しいことが分かります。
更に彼のポッケから毒殺に使ったチョコレートの袋が見つかりました。

楡重治が犯人に違いない。逃げられる前に重治を逮捕しなければならない。
警察はそう判断しましたが、事態は意外な展開を迎えます。

なんと重治が出頭し、自白を始めたのです。

警察としても自首をするのならば言うことはありません。
その後、重治の態度が殊勝なこともあり、死刑にはならず無期懲役の判決が下されたのでした。

40年後に明かされる毒殺事件の真実

重治が出所したのは平成20年のことでした。
そこで彼は楡家の生き残りで愛人でもあった燈子と文通を始めます。

彼の願いは真相の究明。あの時、何があったのかと燈子と解決したいと言うのです。
今更事件が解決しても失った時間は戻りません。しかし、重治の時は真実を明らかにしなければ止まったまま。

燈子も彼の手紙を喜び、2人は互いに自身の推理を披露することになりました。

トリック・捜査内容

時効を迎え、終わった事件の追想

事件は時効を迎え、当事者も重治と燈子を除いて鬼籍に入っています。

そのため、調査はあくまで2人の記憶を頼りに行われます。
40年の月日が経っているとは言え、人生を変えた事件。忘れるはずがありません。

鮮明に残った記憶を頼りに情報交換をして2人は真実を追求します。

はっきりと真実が分かるわけではない

いくら記憶があるとはいえ40年前の事件。
証拠は何も残っていません。なので、恐らく真相だろうと判断はされますが、犯人の自供がないので何とも言えない曖昧な感じに終わります。

ただ、重治はそれを分かった上で名誉の回復を狙っており、それは最終章で達成されます。
流石は元弁護士と言ったところでしょうか。あまりにも鮮やかな手腕に感動しました。

手紙がほとんどで作中の動きはない

ページのほとんどが重治と燈子の文通に割かれています。
そんなわけで作中で動きはほとんどありません。

場面転換が著しい動きのある小説を読みたい人には不向きです。

クライマックス

人間の底知れぬ恐ろしさ

ただただ人間の悪意が恐ろしい。そんなラストでした。
資産家の身内争いは推理小説の王道であり、骨肉の争いはどうあがいても陰惨なものになります。

どいつもこいつも腹に一物を抱えており、誰が犯人でも動機は金や名誉にしかなりません。
なにより辛いのが無実を訴える治重の仮出所まで40年以上の歳月が流れています。

一人の人生を台無しにするには十分すぎる時間。
もし本当に治重が無罪ならば、真犯人はあまりにも残忍と言うほかありません。

真相を暴いた重治の心の行きつく先は

絶望の冤罪を負わされた重治は最後の最後で出所し、愛する人と再会できました。
彼なりの真相も判明し、それに対する報いもできたと言えるでしょう。

しかし、果たして彼はそれで満足できたのか。少しでも悔いを減らせたのか。
正直微妙なところであります。かなり辛いエンドなのは間違いありません。

まとめ

人の残酷さがつまった作品。
カタルシスは一切ないのでご注意を。

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