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作品情報

作者:まさきとしか
出版社:小学館文庫

雑感

とにかく読んでいて苦しい作品。
息子が死んでからの家庭崩壊を丁寧に書いていて、共感しやすい人はドツボにはまる。

刑事小説としては無難に着地しており、その辺りは安心できる。

総合すると、読む人をかなり選ぶ良書と言えます。

粗筋

息子がいなくなって私は壊れた

ずっと自分に自信を持てなかった。
そんな私でも家族を持って変わることができた。

夫に娘に息子。彼らのために私は頑張ることができた。
自分の生きる意味を見つけることができた。

でも、そんな幸せも息子の大樹を失ってなくなってしまった。

まるで自分が自分でなくなるような。
夫や娘に辛辣な言葉を投げ続け、1日中布団で泣き叫ぶ日々。

気づけば私の周りには誰もいなくなっていた。

殺人事件を追う2人の刑事

三ツ矢と田所は新宿区で起きた女性殺害事件を追っていた。
重要参考人である百井辰彦は行方不明。証拠も少なく事件は難航する。

ところが、捜査を進めるうちに15年前の水野大樹の事故が見え隠れするように。

ただの事故に過ぎない何でもない事件。しかし、三ツ矢は執拗に追い続ける。

一方、辰彦の母である智恵はしびれを切らして、独自に息子の捜索を始める。
妻を疑い、恐れ、憎悪し、自分以外に息子を救える人間はいないと息巻く。

その姿はまるで息子を失った水野いづみのようであった。

登場人物

母親の愛が重い。

とにかく母親の暴走が読んでいてきついので、かなり人を選ぶ。
母の過干渉に悩んでいる人が読むと引っ張られると思う。そういう人は読まない方が良い。

でも、よくよく考えると誰にでもあり得そうなことなんですよね。
息子が自殺や失踪をする前は普通の母でしたから。ただ、自分より家族を大事にし過ぎたのが良くなかった。

あまりにもきつい描写。でも、生々しくもある。そんな秀逸な母親像と思います。

事件

2つの事件の繋がりを辿る

過去と今の事件の繋がりは推理小説の王道。
一見すると無関係な事件が交差するのは見ごたえがあります。

特に今回は何でもないただの事故死ですからね。
何がどう転がれば15年後の殺人事件につながるんだと。

先が気になる展開が続きます。

4人の母親の想いに重きを置いた事件

良くも悪くもトリックもなければ謎もありません。
事件そのものを追っても一向に解決しなかったでしょう。

大事なのは母親の心理。そこに三ツ矢は真実を追い求めます。

どうしてそう思うのか?それはどういう意味?なぜ?なぜ?
しつごいぐらいに三ツ矢は母親たちに尋ね続けます。

母親の感情を理解した時、事件は予想できない、いえ、したくなかった結末を迎えるのです。

クライマックス

家族が抱える闇と愛の極致

本書裏の粗筋より

この言葉に偽りはなかった。
救いなんてない。奇跡なんて起こらない。最初から最後まで地獄のような展開が続きます。

でも、それでも三ツ矢のおかげで何かが変わったかもしれない。そんな気持ちになれたことも事実。

無口で何を考えているか分からない三ツ矢刑事。
でも、誰よりも事件関係者の心情を理解していた。

我々読者も三ツ矢のおかげで救われたかもしれません。

まとめ

間違いなく人を選ぶし、後味も良くない。
でも、ほんの少しだけ光が見えた気もする。そんな絶妙な内容でした。

主人公の三ツ矢を好きになれるかどうかも大きいかもしれない。

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