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作品情報

作者:城戸喜由(きどきよし)
出版社:光文社文庫

雑感

カジュアルな文体でスルッと読み進められる。日常的に小説を読む人は半日で読了可能。
複雑な用語もなし。ただ、主人公の癖が強く、その辺りは人を選ぶ。

粗筋

姉の殺人事件から決定的に壊れた5人家族

姉の御鍬(みくわ)が何者かに殺害された。
その事件に興味を持った椿太郎は事件の捜査に乗り出します。

しかし、それは決して弔い合戦などではなく、純粋な好奇心から。
どんなワクワクした事実があるだろう。そんな期待が彼を突き動かします。

また、椿太郎は姉の残したメッセージ「この家には悪魔がいる」にも強い興味を抱きます。
いったい誰が悪魔なのか。父?母?自殺した兄?それとも僕?

メッセージの真実を知りたい。
こうして殺人事件と並行して、家族の調査にも没頭することになるのです。

家族の真実を追い求める椿太郎の異常性が周囲を蝕む

椿太郎は魔物ではないかもしれない。でも、間違いなく異常である。

彼が調査をする上で多くの人間と関わります。そして、多くの影響を与えていくのです。
その異常性に心酔する者、不快感を抱く者、興味を、恐怖を抱く者。

こいつはやばい。気づいた時にはもう手遅れ。心が完全に束縛されてしまいます。

一度でも椿太郎に絡めとられた人間は彼が興味を失うまで逃れられないのです。

彼と関わった者達の末路とは。本筋とは異なった視点でも物語は動き続けます。

トリック・捜査内容

腹が立つものの魅力的な主人公

選考会で賛否両論を呼んだと帯に書かれていますが、清家椿太郎の人間性が理由かなと思います。

とにかく冷酷で他者と感情を共有できない。サイコパスに近い。
無意識に相手の神経を逆なでし、心をえぐる言葉を躊躇なく投げかける。

その上、妙に俗っぽくて学生らしいところも垣間見えると。

中二病の究極系。それもフリではなく、骨の髄までという真正なのです。

これは最後まで変わることはありません。
ここまで読者を苛立たせる主人公はそういないでしょう。

そういう意味でかなり人を選ぶキャラクター。でも、不思議な魅力があるのも事実なのです。

足で情報を集める王道の推理方法

本書のすべてがぶっ飛んでるかと思いきや、プロット自体は至極全うな推理小説でした。
だからこそ異常と言えるのかもしれませんね。

椿太郎は家族に隠された真実を知るためにあらゆる手段を講じます。

  • 戸籍謄本を取り、両親の親族を洗い出す
  • 事件現場を訪れ、容疑者のアリバイも確認する
  • 兄の小説原稿を読んだ編集者にコンタクトを取る

調査方法がいちいち的確でムダがない。椿太郎には探偵の才能がありました。

主人公の異色さとの温度差で風邪をひきそう。実に王道の推理をしています。

クライマックス

全てが狂っていた清家の5人家族

すんごいなの一言。
椿太郎どころかみんなクレイジーでした。こいつらなんやねん。

愛が本物だったのかも疑わしい。いや、間違いなく本物だったのでしょう。
誰かが必ず何かを愛しているのは間違いないのだから。

実に見事な結末。ラストで清家の人間の集大成を見ることができます。僕、感動しちゃったよ。

ある意味でヒューマンドラマかもしれない。

殺人事件もすっきり解けてめでたしめでたし

めっちゃしっかり探偵しており、犯人もばっちり突き止めます。
もちろん「この家には悪魔がいる」の秘密も判明。

伏線もしっかり回収して、推理小説として隙の無い構成でした。

まとめ

いやあ、これは確かに良い意味で賛否両論だなあ。言葉通りだなあ。
自分でも言っていて意味が分かりませんが、賛でも否でも本書を読んで後悔はしないと思います。

とにかく主人公の頭がおかしい。もしかしたら奇書に該当する作品なのかもしれない。

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