作品情報
作者:伊吹亜門
出版社:角川文庫
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雑感
満州国を舞台とした歴史ミステリ。
当時の状況を克明に描いており、昭和史を好む人にオススメの作品です。
ただ、時代に即するためか大部分のカタカナ全てを漢字表記にしており、難解な文章になっています。
麺麭、露西亜、哈爾濱など読みを調べるのが一苦労でした。
ミステリーについてはホワイダニットに特化していると言えるでしょう。
トリックはそこそこで犯人もなんとなく分かります。
しかし、動機が分からない。なぜ、こんなことをしたのか最後まで謎に包まれています。
それを知った時、犯人に同情するか嫌悪するかは読者次第です。
粗筋
元陸軍中将の晩餐会で不審死を遂げた男性。
彼は革新官僚・岸の秘書をしており、探偵の月寒はその岸から調査を依頼されます。
早速、事件現場の小柳津邸を訪ねる月寒は事件関係者に話を聞くことに。
しかし、誰もが秘書と初対面であり、動機が全く分かりません。
また、被害者とは別の人間に向けた脅迫状も見つかり、事件は混迷を極めます。
それでも解決の糸口はあるはずだ。月寒は調査範囲を広げ、細かな異変も見逃さぬよう注意を払います。
そんな中、第2の事件が発生し、事態は更なる展開を迎えることになるのです。
登場人物
私立探偵の月寒が実に渋い。
警察や憲兵、国務院に対し、ギリギリで立ち回る様は実に爽快でした。
推理も理路整然としており、1つずつ確実に謎を解いていくのに安心感がありました。
人脈の癖が強いのも探偵ならでは。協力者の医者や隣人がどいつもこいつも胡散臭いんですよね。
ハードボイルド探偵として完璧な主人公と言えます。かっこいいんだわ。
事件
証言から違和感を見つけだせ
事件現場も殺害方法もはっきりしているため、動機探しが重要となります。
月寒は関係者と会話をし、事件解決を目指す月寒。
時には真実に近づくため、時には命を守るため。月寒にとって会話は最大の攻防手段なのです。
ディベートを主軸にした調査が好きな人は楽しめる構成ですね。
月寒以外も弁が立つので、緊迫した展開が続くのも面白い。
油断すれば命を失う緊迫の連続
最初からきな臭い事件でしたが、調査を進める中で様々な障害が月寒に襲い掛かります。
そもそもが異郷の満州国。陸軍や憲兵が幅を利かせている国です。
治安もかなり悪く、油断をしなくても命の危機にさらされるんだから恐ろしい。
今回の事件だけ見れば「若者の毒殺事件」に過ぎませんが、突き詰めると満州国特有の闇が浮き出てくるのです。
満州国を舞台にした歴史小説としても非常に読みごたえがありました。
クライマックス
衝撃の一言。
静から動への変化が激しい。いきなり動くんかいと。
最初のうちは何が起こっているか分からないかもしれません。それぐらいに目まぐるしく状況が変わる。
全てが腑に落ちるのは真犯人の動機を知ってから。
それまでバラバラだったピースが集まり、1つのパズルが出来上がりました。
その完成図があまりにも衝撃。お前、内心でそんなことを考えていたのかと。
ある意味で満州国ならではの動機かもしれません。現代では想像もつかない。
まとめ
探偵小説好きにも歴史ミステリー好きにもオススメの作品。
謎もきれいに溶けるので、消化不良感は一切ありません。