目次
作品情報
作者:阿津川辰海
出版社:光文社文庫
粗筋
この人の小説はやっぱり面白いわ。THE推理小説って感じで満足感がすごい。
自首謹慎中の刑事、故郷に帰る
被疑者を射殺し、自主謹慎をすることになった獅童。
天涯孤独で行く当てがない中、幼少時に過ごしていた故郷の村を訪れることを決めます。
そこで獅童は学生から「殺人犯の容疑をかけられた師匠を救ってほしい」と助けを求められます。
唐突な話でしたが、学生の熱意に負けて獅童は事件に深入りすることになるのでした。
確定した未来を予言する星詠師の矛盾を突き止められるか
現場となったのは星詠会と呼ばれる研究機関で、紫水晶に未来を映す星詠師が中心となっていました。
星詠師はいわゆる預言者のことで、確実に起こる未来を紫水晶に映し出すというのです。
そして、どうにも殺人の証拠が紫水晶に映っていたらしいとのこと。
もし、彼らが言うように紫水晶に映る内容が「確定した未来」ならば、揺るぎない証拠となるでしょう。
とはいえ、容疑者となった石上真維那は殺人をするような男に見えません。
ならば、紫水晶に映った内容の矛盾を暴くしかない。こうして獅童と星詠会の戦いが始まるのでした。
トリック
未来を見通す紫水晶が事件を惑わす
未来視を行う星詠師が本作のトリックの肝。
いわゆる特殊設定であり、これを前提として事件の考察が行われます。
ただ、この未来視が中々の欠陥でして調査は思ったように進みません。
- 星詠師の視点が数分~数十分映し出される
- 視覚情報のみ
- タイミングはランダムであり、日時や場所の特定も難解
言ってしまうと、精度の低い監視カメラと言えるかもしれません。
2については読唇術で言葉の解読を進められますが、3のタイミングについては如何ともしがたく活用が難しい理由となっていました。
だからこそ推理し甲斐があるとも言えますね。紫水晶を軸に推理をする新鮮な特殊設定ミステリとなっております。
容疑者が多く、犯人の絞り込みが難解で面白い
犯人の特定が本作のメイン。フーダニットが好きな人にオススメの内容となっています。
過去の事件と現在の事件が複雑に絡み合っており、様々な容疑者が浮上します。
- 真維那:被害者の息子
- 仁美:被害者の妻
- 香島:真維那の弟子
- 千葉:史上2人目の星詠師
- 手島:次期「大星詠師」をもくろむ星詠師
- 淳也:星詠会の経営者
- 高峰:研究員
- 鶇:読唇術者
誰が犯行を行えるか。過去の事件との関連性は何か。
頭脳明晰な獅童が事件の真相に迫っていく展開はワクワクしました。
赤司の回想が冗長な上、ぶつ切り感が否めない
被害者の赤司に感情移入させるためか過去回想に結構なページを割いています。
それは良いのですが、事件そのものにタッチしておらず、トリックを解く上であまり意味がありません。
また、半端なところで終わるので、赤司の最後を知ることがついぞ叶わないのも残念。
彼が何を思って死んだのか。息子や妻にどういった想いを持っていたのか。自分の人生をどう考えていたのか。すべて不明です。
せっかく回想なのに結局は想像で語るしかないのがなんだかなあと。周りの証言でおおよそはわかりますけど、それなら回想いらなくね?とはなった。
クライマックス
推理小説らしい満足のいく結末
特殊設定を生かしつつ、足で情報を集め、何度もトライ&エラーを繰り返します。
そんな紆余曲折の末に真実に到達したときは推理小説の良さを実感しました。
長編が故に読むのは根気がいりますけどね。453ページは中々のボリューム。だからこその満足感も確かにありました。
動機の説明がなく、若干の消化不良感も
あんまりいうとネタバレになるのでアレですが、過去の事件の犯人の動機が結局想像でしか語られませんでした。
せっかくなら本人の口から聴きたいとは思った。まあ、あくまでメインは現代の事件だから仕方ないのか。
まとめ
骨太の推理小説で楽しかった。
現代がメインであり、被害者の赤司の物語はサブと思ったほうが吉。でも、ほとんどの人は感情移入しちゃうと思う。