【粗筋】死亡推定時刻【感想】~冤罪発生のロジック~

作品情報
作者:朔立木
出版社:光文社文庫
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雑感
これはノンフィクションなのか違うのか。
冤罪の発生、冤罪を立証する難しさを474ページにわたって書いています。
実際、現実のニュースでも警察の不祥事は何度も報じられており、冤罪も発生しています。
どこかで本書のような冤罪が発生してもおかしくない。そんなリアリティを感じました。
正直読んでいて辛い。特に冤罪を受けた男の母親があまりにも悲惨すぎる。こんなのあんまりだよ。
粗筋
地元有力者の娘の誘拐事件が発生し、すぐに警察が対応した。
しかし、身代金の受け渡しは失敗し、娘も殺害される最悪の結末を迎える。
犯人解明のため警察は調査を始めるが、県警本部長の盛田は保身に走り、死亡推定時刻の捏造を組織ぐるみで行わせた。
結果、無実のチンピラ・昭二を逮捕。激しい尋問の末、無理矢理に自白を吐かせることに。
昭二の母はなけなしのお金を払って弁護士を雇うも、ろくに弁護をしないどころか有罪判決を後押ししてしまう。
判決は死刑。昭二は無実の罪で人生を終えるかに思われた。
しかし、川井弁護士は冤罪の可能性に気づき、彼の国選弁護を引き受ける。こうして巨大な組織を相手にした冤罪裁判が始まる。
登場人物
窃盗の前科を持つ小心者のチンピラ。
発見した死体を通報せず財布だけ抜き取り逃走したことで、殺人の容疑までかけられる
後編の主人公であり、正義感の強い弁護士。
昭二にかけられた冤罪を晴らすべく休みなく働き続ける
女性陣があまりにも不憫すぎる。
殺害された少女はもちろん、被害者と加害者両方の母親が地獄を味わっています。
そもそもの発端が男たちにあるから質が悪い。
昭二も殺人こそ冤罪ですが、窃盗はしているわけで。後のことを何も考えていません。
とはいえ、冤罪を押し付けられてよいわけでもなく。
警察、検事、裁判官、解剖医、弁護士が結託して冤罪を作り上げており、流石に昭二には同情しました。
ただ悪人だからと言うより、組織そのものが冤罪を作り上げているように思えました。
1人1人は職務に忠実なんですよね。ただ、どこまでも組織の人間だったというだけです。
冤罪は組織が作り上げる。そんな不気味な人間模様を堪能できました。下手なホラーより怖い。
事件
警察組織の底力(笑)がまさにプロレベル
団結力が半端じゃない。
まずは本部長の言外の意向を汲み取り、死亡推定時刻の捏造を黙認した沖田警部。皮肉にも周囲からは立派な警察官と評判でした。
次に過激な尋問で嘘の自白を引き出した平井警部。彼自身は正義感の塊です。そんな彼も死亡推定時刻の変更を訝しみながらも新たに別の自白を吐かせます。
それ以外も裁判官や解剖医が青年の冤罪を作り上げており、その鮮やかさに不覚にも感心してしまいました。
こんなん一般人にはどうしようもありません。助けもない取調室で休みなく尋問すれば誰だって嘘の罪を認めますわ。
とにかく胸糞の悪い展開が第一部で延々と続きます。耐えましょう。
読者の代弁者・川井弁護士が奮闘するが、壁は分厚い
第二部になってようやく昭二の母親以外に味方が現れます。
敏腕弁護士でいち早く冤罪に気づき、被害者の両親ともコンタクトを取るなど行動は的確。
第一部よりはるかに気持ちよく読み進められるでしょう。
しかし、敵はあまりに巨大で、彼が追及するたびに裁判官が妨害する有様。とても勝てる戦いではありません。
彼が頼りにする人たちもまともに協力してくれず、死刑判決を覆すのは絶望的な状況に陥っています。
第一部が冤罪発生のメカニズムであるなら第二部は冤罪証明の難しさを書いていると言えるでしょう。
クライマックス
下手なことは言えない。何を言ってもネタバレになる。
こればかりは実際に読んでみてほしいのですが、個人的にはこれ以上ない結末でした。
なんにせよ川井弁護士と出会えたことは昭二にとって人生最大の幸福であったことは間違いありません。
たった1人でも味方がいることがこれほど心強いとは彼自身思いもしなかったことでしょう。