作品情報
作者:岡嶋二人
出版社:講談社文庫
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雑感
競走馬の知識をふんだんに盛り込んだ小説。
遺伝情報にまで踏み込むので、読み終わる頃には馬の雑学がそれなりについていることでしょう。
ミステリー面はホワイダニット好きにオススメ。これもまた本書特有で興味深かったです。
ただ、馬に注視した弊害か人間の魅力が全くありません。
特に主人公の香苗は必要性を感じられず、中盤以降はうんざりしてしまいました。
粗筋
夫が牧場で銃殺された。
訃報を聞いて駆け付けた香苗は初めて夫の競走馬評論家としての仕事を知ります。
彼にとって私はなんだったのだろうか。何も知らないままだ。
気持ちの整理がつかないまま帰宅した香苗。そんな彼女を追いつめるかの如く何者かが自宅に侵入した痕跡が見つかります。
貴金属に手を付けられていない。だとしたら、夫の持つ競走馬関連の資料しかありえない。
まだ、事件は終わっていないのか。そもそもなぜ夫は牧場を訪ねたのだろうか。
親友の芙美子が協力し、香苗は事件に隠された秘密を暴くことになりました。
登場人物
ヤマジ宝飾が開校している彫金教室の講師。
競馬評論家の隆一と結婚したが、夫婦仲は冷え切っている。
この主人公いる?
びっくりするほど空気。
一応は被害者の妻なので事件関係者ではありますが、いなくても支障はありません。
そもそも事件に対して受け身ですからね。
探偵役の芙美子に引っ張られて、なし崩し的に真実を知って終わり。
芙美子が主人公を食う良キャラかと言うと、そういうわけでもなく。
野次馬根性で事件に首を突っ込んでるだけなんですよね。だったら、香苗にその役目を譲れよなと。
そんなわけで、登場人物に期待して読むと中盤から苦しくなります。
事件
午後5時頃、幕良牧場にて2人の男性と2頭の馬が銃殺される。
馬の秘密に迫れ
ただひたすらに馬の出生を探っていきます。
ミステリーとしては異色で、それが分かれば自ずと真犯人に辿り着くようになっています。
普通は事件現場の痕跡や被害者の人間関係を調べますが、本書では一切しません。
純ミステリーを求める人は面食らうかもしれませんね。
斬新な切り口なので、一風変わった推理を求める方にはオススメです。
なお、かなり詳細に馬の説明をしますが、難解で理解するのは苦労すると思います。
事件解決の爽快感が無い
夫を失った香苗は事件を自主的に追う気はありません。
彼女を引っ張っている芙美子も別に事件に因縁があるわけでもなく。
結果、事件を解決したことのカタルシスは皆無です。
だからかな。話としては面白いんですが、いまいち心に残らないんですよね。
競走馬の実用書にストーリーを加えた感じになっています。
クライマックス
程ほどに怒涛の展開…なんですが、芙美子がここまでする理由がさっぱりわからない。
香苗に至っては終盤はビビりまくりの誤解しまくり。いても邪魔にしかなっていません。
一気に解決してはいるんですけどねぇ。登場人物全員の部外者感がすごいと言いますか。
芙美子の夫が死んだならもう少し納得できましたが、どうにもモヤモヤしました。
まとめ
競走馬ミステリーとしては面白い。
しかし、登場人物の魅力が無さ過ぎて、読後感の良さはありませんでした。
登場人物より事件だ!って人には良いかもしれない。