作品情報
作者:長浦京
出版社:講談社文庫
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雑感
なんかもうすごい。
偽善とか偽悪とかそういう次元じゃない。
狂信的とも言える信念と信念のぶつかり合い。相いれない者同士の闘争の物語です。
一般常識に当てはめれば、登場人物全員が逮捕されてしかるべし。
しかし、だったら他にどうすれば良かったのか。色々と考えさせられる作品です。
終盤の手に汗を握る攻防は映画のよう。3人の主人公それぞれに見せ場がありました。
なお、謎解き要素もしっかりあります。謎が謎を呼ぶ推理小説としても屈指の出来。
粗筋
あなたが殺人犯だと知っています
作中のセリフより
清春の目の前に現れた謎の女性「怜美」は唐突にそう告げました。
更に犯行を裏付ける証拠を持っていると言い、バラされたくなければ協力しろと脅してきます。
清春が殺人犯なのは紛れもない事実であり、怜美が断片的に語る証拠もまた真実でした。
しかも彼が欲しがっていた情報も持っていたため、やむを得ず彼女に協力することになったのです。
協力の内容とは母の死の真実、そして、行方不明の姉の捜索。
同じく怜美に脅されている刑事の敦子とともに清春は得体のしれない事件を探ることになりました。
登場人物
マーダーズとはよく言ったもの。どいつもこいつも平気で人を殺しやがる。
清春もその1人で、大量殺人を犯しながらバレずに生きてきました。
それでは全員が邪悪なのかと言うと一概にはそう言い切れません。
少なくとも快楽殺人鬼ばかりではない。障害の解決として殺人を選んでいるのです。
虐待であったり痴情のもつれであったり復讐であったり。
当人にとっては殺すしかなかったという理屈も分からないでもありません。
ただ、殺人を犯した人間はどこかが破綻していきます。
殺しを正当化し、まるで正義執行人かのようにふるまう。
倫理や法を度外視して、自分の信念にだけ従う。そんな奴らしか登場しないのです。
事件
どこまでも大きくなる事件の全貌
玲美の母「美里」の死と姉「奈々美」の行方の調査が本筋ですが、調べていくうちに事件の規模がどんどん大きくなっていきます。
そもそも最初の違和感が「美里の遺体に残る索状痕」だけですからね。
それに類する過去の事件を探せば、そらどんどん広がるわなと。
しかも類似する事件全てが未解決あるいは事故で処理されたもの。何か大きな闇を感じずにはいられません。
事件の規模が大きくなるほどにワクワクし、読む手が止まりませんでした。
大量の行方不明者が出ると言う点でFINDに近い。本書の方が色々と壮絶で救いはありませんが。
アウトローな捜査で真実に近づけ
一連の事件は普通の手法では解決できません。
そのため、まずは殺人鬼である清春が犯人の思考をトレースし、刑事の敦子がそれに従って警察内の捜査情報を抽出します。
何から何までアウトな捜査ですが、そのおかげで今迄に見えなかった真実にどんどん近づいていきます。
犯罪者と警察のタッグは強いなと。現実ではありえない組み合わせです。
2人とも優秀なのでヤキモキする展開は一切ありません。惚れ惚れするほど。
それでも何度もピンチになるあたり相手も一筋縄ではいかない強敵と言えるでしょう。
クライマックス
むちゃくちゃに熱い。
覚悟を決めた清春と敦子が頼もしすぎる。
アクション作品並みに敵をバッタバッタとなぎ倒していきます。
清春は身体能力こそ平均ですが、人を傷つけることに一切の抵抗がないのが強い。
これは敦子もそうでして、急所は外すものの敵をライフルで容赦なく打ち抜きます。
玲美は流石に戦力外ですが、彼女も命を懸けて目的を達成しようとします。
ここまでくれば勝つのは意思の強い者のみ。そんなバトル漫画みたいな展開になります。
果たして玲美は真実を掴めるのか。清春と敦子は生き残れるのか。
熱い結末をご堪能ください。