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作品情報

作者:五十嵐律人
出版社:講談社文庫

雑感

法律用語が頻出するが、かみ砕いて説明してくれるので有難い。
とはいえ、それなりに読むのには苦労する。僕は休み休みで1日で読了。

登場人物も素直で内容に反して不快感はない。

粗筋

裁判官の卵たちが興じる無辜ゲーム

法律家を育成するロースクールで、無辜ゲームなるものが学生たちの間で流行っていました。

無辜ゲームとは
  1. 「加害者」は刑罰法規に違反する罪を犯し、天秤のサインを残す
  2. 「被害者」は罪状と立証するための材料(書証・証人)を「審判者」に伝える
  3. 裁判で被害者と審判者が証人に質問を行い、被害者は加害者を特定する
  4. 審判者が判決をくだす

格好良く言ってますが、ぶっちゃけ私的リンチの延長線上に過ぎません。
これが許されてるのは審判者としてゲームを管理している結城の存在が大きいと言えます。

すでに司法試験に合格した学内の超エリート。その能力を疑う者はいません。
彼が主催者だからこそ無辜ゲームは成り立っていると言えるでしょう。

無辜ゲームを通じた嫌がらせを受ける久我

さて、その無辜ゲームに本作の主人公である久我清義が「被害者」として参加することになりました。

罪状は過去の暴露。彼の高校生時代の罪の内容を生徒にばらまくものでした。
自分だけムシすればよかったのですが、過去の事件に関わっていた織本美鈴にまで被害が及んでいます。

もはや看過できない。こうして彼は無辜ゲームで犯人を暴くことにしました。
なんとか犯人を特定し、罪を償わせた久我。しかし、分かったのは実行犯までで、計画犯は分からないまま無辜ゲームは幕を閉じます。

それからもしばらく計画犯の嫌がらせは続きましたが、ある時にピタリと終わりを告げます。
いったい何が目的だったのか。言いようもない不安を抱えながら久我は弁護士の道を歩むことになります。

弁護士として初めての事件で友人の弁護をすることに

嫌がらせの目的。それは友人の死をもって久我に襲い掛かります。

過去に久我が犯した事件が発端なのか。何一つ状況が見えない。
しかし、きっと逃げることはできないのだろう。真実を突き止めなくてはならない。

初弁護としては入れの刑事事件に久我は挑むことになるのでした。

トリック・推理

法廷を楽しく学べる

ロースクールから物語が始まったということもあって、法律関係の用語が頻出します。
それを無辜ゲームを通して教えてくれるので非常に分かりやすい。

特に冤罪事件にも焦点を当てており、それに関する法律の知識が身についていきます。
裁判の描写が多く、臨場感を楽しめるのも本書の特徴と言えるでしょう。

法の雨と併せて読むと法律を勉強したくなること請け合いです。

地道な情報収集を続ける面白さ

ただの法廷バトルでは終わらない。刑事小説かと思うぐらいには地道な調査を行っています。

  • 別件で弁護を担当する容疑者の男
  • 命を落とした被害者の母親
  • 久我が過去に助けた女性

場面転換が多く、多くの情報を久我と一緒に集める感覚を楽しめます。

クライマックス

巡り合わせが悪かったとしか言いようがない。
そらみんな悪い。でも、悪いことを許容しなければ生きていけなかった。

そんな感じであまりにも辛いエンドですが、一方で救いがあります。
確かに久我は多くの間違いをしてきました。ですが、彼に救われた人も大勢います。

同情でも非難でもなく相手を理解をする。そんな久我の生き方は読んでいた僕でさえ勇気づけられました。

なので、結末とは裏腹に読後感は非常に爽やかでした。

まとめ

ゲームを通して法律を学べる良書。
救いがないように見えて後味は悪くない。そんな不思議な作品でもありました。

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